掲載にあたって(山崎 力)
今回から、平河三郎氏の「永田町スクランブル」を掲載します。筆者紹介にもあるように、ベテランの政治ジャーナリストで、その情報量は、陣笠議員は無論のこと、大臣経験者の中堅クラスを超え、最高幹部クラスも一目置く程。古くからの友人のよしみで、載せさせていただくことができました。
なかなか日刊紙やテレビでは接することの少ない、永田町の最深部の最新情報です。今後も折にふれ、お届けします。
初回は、「内閣改造」。種々報ぜられていますが、総合的な判断と見通し、政治首脳の心の動き、そして何より、永田町を見つめるプロの眼を読み取っていただければ幸いです。
私自身もこれまでとても教示してもらいました。一つ一つは、情報として(噂として)聞いていても、それを総合的に関連づけて、全体像として教えてもらっていると、新たな展開にも、対応が楽になります。
内閣改造。断行か断念か、今後の日本政治の方向を決める次期総選挙の結果に直結するといって過言でないだけに、注目されるところです。今の私の気持ちは、福田首相も性格による、より正確に言えば、今後の取り組み方で、初めて福田さんのその性格が分かる――です。
政権浮揚か失速かー内閣改造の裏を読む
洞爺湖サミットが終わった。亡父・福田赳夫元首相の果たせなかった夢、サミット議長を務め上げた福田康夫首相。心底からの笑顔に宰相としての自信回復がみてとれた。「さあ、お次は内閣改造」。新聞各紙が書き立てる。しかし、後見人の森喜朗元首相の言うように「改造は両刃の剣」でもある。政権浮揚を狙った内閣改造で失速した例は少なくない。「白紙」を繰り返す首相の表情にもまだ、「迷い」が残る。
「政治の要諦はなにより日程」と言ったのは、あの気配り自慢の竹下登元首相(故人)。今回の内閣改造もまず、日程だ。首相は7月16日から21日までの6日間、早めの夏休みをとった。本人は「(休み中)何を考えるか(これから)考える」ととぼけるが「英気を養い、人事構想を練る」と誰もが思う。一方、8月に入ると6日が広島、9日が長崎の原爆関連式典。その間に8日の北京五輪開会式がある。15日は終戦記念日。靖国神社参拝は否定する首相だが、各種式典がある。臨時国会召集はお盆明けの22日といわれている。とすれば、内閣改造断行のタイミングは7月下旬から8月初旬しかない。「本命7月30日、対抗8月1日」との声も上がる。だが、お盆直前の8月11日説も消えてはいない。
首相の迷いは官房長官人事
日程はさておき、自民党国会議員の注目は改造の規模だ。大幅か中幅か小幅か。「全面入れ替えで福田色を」と「安全策で一部だけを」の声が交錯する。
現在の福田内閣は17閣僚のうち15閣僚(横滑りを含む)を安倍前内閣から引き継いだ。「居抜き内閣」といわれる所以だ。首相と前首相との人間関係は良好とはいえない。首相側近は「今度は自前の内閣を」と力む。
だが、首相は全面改造には及び腰とされる。「新閣僚のスキャンダルが恐い」というのだ。昨年夏、安倍前首相が参院選惨敗を受けての改造人事で失敗、退陣に追い込まれたのは記憶に新しい。前通常国会で問責決議案を可決させ、次の臨時国会で勝負をかけようとしている民主党に「スキャンダル閣僚」の餌を与えるのは自殺行為、というわけだ。守り重視の首相らしい。
もうひとつ。首相が迷う原因となっているのが官房長官人事。本来、首相と官房長官は「おしどり夫婦」が理想。少なくとも、「腹を割って話せる友人」でなければならない。しかし、首相と町村信孝官房長官の関係は傍目にもよそよそしい。官邸筋によると、情報を共有していないためのトラブルも目に付くという。昨年末、いったん改造の意向を固めながら年明けに撤回したのは、「官房長官を代えようとして、町村派内が混乱したのが理由」とされる。
麻生幹事長説に色めき立つ各派
さらに、自民党幹事長人事も難題だ。伊吹文明幹事長は数少ない「首相の一本釣り」人事だった。長年の交友で「NHK国会討論会で野党の幹事長らを論破できる人物」とみての起用だった。しかし、「知識と弁舌は群を抜くが人望が?」といわれるように、党内掌握は明らかに力不足。肝心のテレビ討論も「理屈っぽさが視聴者に嫌われて、自民党批判を増幅させている」と散々。首相周辺も「改造するなら幹事長も入れ替えを」と進言しているようだ。
首相がサミット終了後の10日、「内閣改造は?」との質問に「全くの白紙。白紙は変わっていない」とことさら強調したのも、改造のメリットとデメリットの判断がつきかねているからだろう。しかし、ここまで改造論が盛り上がると、見送りは求心力低下につながりかねない。縦横の政局運営で永田町をうならせた小泉純一郎元首相は「首相の力の源泉は解散権と人事権。失敗すれば退陣しかない」と言い放った。「ここで改造できなければ政権はジリ貧。解散より退陣が先になる」(自民長老)との解説が現実味を帯びる。
すでに自民党内では様々な人事構想が飛び交っている。多くは観測気球だが、「もしかしたら」と思わせる情報もある。
そのひとつが「麻生太郎幹事長」説だ。昨年9月の自民党総裁選で福田首相に敗れ、「しばし充電」と野に下った麻生氏。思想的にも首相とは違いが際立ち、福田政権には参加しない、と見られていた。しかし、首相はすでに水面下で麻生氏に「幹事長就任を打診した」というのだ。しかも、麻生氏は「状況次第」と態度を留保したという。麻生氏と共闘を組む安倍前首相サイドから漏れた情報というところが引っかかるが、党内各派閥の幹部連を色めき立たせた。
与謝野副首相、小池外相ならオールスター内閣
一方、「与謝野馨副首相兼厚生労働相」説もなかなか奥深い。与謝野氏は咽頭ガンといい重病から復帰後、積極的な政策提言を続けている。著書「堂々たる政治」を出版、「消費税10%」の持論をアピールし、「福田政権が突然倒れれば、リリーフは与謝野」というのが玄人筋の見方でもある。この説のミソは社会保障制度など大きな枠組みでの政策決定は与謝野氏に委ね、年金記載漏れなどは副大臣を実質的な大臣扱いとして、引き続き舛添要一大臣に担当させるという点。この構想は中央紙の一部が一面トップで報じ、各メディアは「無視」したが、実は首相自身のアイデアとの見方も広がっている。
ポスト福田は「本命・麻生、対抗・与謝野、大穴・小池百合子」というのが永田町スズメの読み。とすれば、麻生幹事長、与謝野副首相に加えて、目玉閣僚として小池氏を外相などに取り込めば「挙党一致」というより「オールスターキャスト」の内閣になる。支持率アップで政権基盤が固まる可能性もある。小泉元首相が「改造すれば福田首相で解散・総選挙」と指摘したのも、こうした構想を首相周辺から嗅ぎ取ったからにちがいない。
しかし、自民党衆院議員の間で「福田内閣で解散・総選挙を」という声はほとんどない。
「とにかく、解散はいやだから、福田内閣を引っ張るだけ引っ張って、選挙直前に首相交代」(古賀派幹部)というのが最大公約数。麻生氏が幹事長就任を「状況次第」というのはそうした党内の声を踏まえ、「ポスト福田の本命としてどっちが得か」を考えているからだ。
現在の衆院議員の任期は来年9月10日まで。それまでには必ず選挙がある、ということ。となれば、福田首相が自ら解散・総選挙に打って出て惨敗すれば、選挙総指揮官の幹事長も「連帯責任」。だが、福田首相が選挙前に退陣すれば党内ナンバー2の幹事長で、しかも前回総裁選で地方票では福田氏を上回った麻生氏がすんなり後継総裁となる確率は高い。麻生氏でなくとも、迷うところだ。事情通は「福田首相が選挙前退陣をにおわせば、麻生氏は幹事長を受ける」と解説する。
めぐる因果、「麻福密約」?も
32年前の夏、当時の三木武夫内閣への倒閣運動が燃え盛っていた。首相の父親の福田赳夫氏が大平正芳氏と組んで挙党協なるものを結成、三木首相の解散権を封じ込めて、同年末の任期満了選挙で三木首相を退陣に追い込み、いわゆる「大福密約」=まず福田氏が首相になり、二年後に大平氏にバトンタッチ=で福田政権が誕生した。その時の福田内閣の首相秘書官が今の首相。そして、「大福密約」の立会人となった鈴木善幸氏(のちに首相)の娘婿が麻生氏。ちなみに、任期満了選挙はこの一回だけだ。
福田首相も麻生氏も実父あるいは岳父から当時の秘話を詳しく聞いているはずだ。しかも、この密約は結局、福田氏が破り、怒った大平氏が、闇将軍といわれた田中角栄元首相の協力を得て初の総裁予備選を勝ち抜き、密約通り二年後に政権を奪い取った。その時の福田氏の台詞「天の声にも変な声がたまにはある」はあまりにも有名だ。
因果はめぐる。歴史は繰り返す。30年後の夏、福田氏と麻生氏の「麻福密約」があるのかないのかーー。首相の休暇明けは7月22日。権謀術数を吸い込んだ「政局の霧」が、猛暑でミンミンゼミの鳴く永田町に静かに流れ出ることになる。
(2008年7月18日記)
平河三郎
平河三郎(ペンネーム)=政治ジャーナリスト。東京在住、61歳。田中内閣から現福田内閣まで19代の首相を政治記者として直接取材。自民党実力者や霞ヶ関のキャリア官僚との幅広い交流で政界の表裏に通じる。古き良き時代の派閥記者の匂いを残す永田町の「化石」。 |
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