「小沢民主の『光』と『影』」(2008年8月)
じっとしていても暑い永田町。8月を迎えて「内閣改造」で大騒ぎしている自民党に比べ、民主党はなにやら精彩に欠ける。「打倒福田」を叫ぶ同党だが9月21日の党代表選への対応で意見が割れ、「政権交代」への盛り上がりもいまひとつ。「半年以内に解散がある」と繰り返す小沢一郎代表は党内の雑音に仏頂面が目立ち、国会戦術も「とりあえず政府・自民党の出方待ち」ではいささか迫力不足。福田内閣の支持率が低迷するなか、有権者の民主党への期待は今までになく高まっているが、「小沢民主」に内在する光と影が、受信レベルの低下したハイビジョンテレビのごとく、政局夏の陣の絵図にぼかしを加えている。
結党から10年の民主党。国政選挙の前後だけ上がっていた政党支持率がいま、自民党に並びかける。「次期総選挙の比例代表ではどこに投票?」では、ほとんどの世論調査で自民党を上回る。自民党随一の政策通でポスト福田にも名が挙がる与謝野馨前官房長官は「このままで選挙をやれば、自民党候補者は全国で枕を並べて討ち死にだ」と頭を抱える。確かに、全国の選挙情勢を分析すると、現状では「自民惨敗」が永田町の常識だ。ただ、その惨敗が「民主党政権」すなわち「小沢首相」誕生に結びつくかが見えてこない。
425議席の奪い合いーー自民と民主
衆議院の定数は480議席。内訳は小選挙区300比例代表180。8月1日現在、各党の勢力分野は自民党304、民主党・無所属クラブ114、公明党31、共産党9、社民党・市民連合7、国民新党・そうぞう・無所属の会6、無所属9である。与党の自公で335議席。総数の三分の二320議席を大きく超える。これが与野党対立法案の「衆院再議決」の拠り所だ。
現在の小選挙区比例代表並立制での選挙予測は難しい。3年前の「郵政解散」での自民大勝は明らかに予測の範囲を超えた結果だった。「風」が吹けばとんでもないことが起こるのが小選挙区だ。しかし、数字を分析すると、見えてくる構図がある。それは、自民、民主の2大政党のシェアはほぼ一定、という点だ。
これを裏側から見ると、「自民・民主」以外の中小政党等の獲得議席は、小さいが故に予測可能ということだ。例えば、投票率を65%と想定して予測してみると、過去の得票傾向から見て、公明党は30議席前後、共産党+社民党は15議席前後、国民新党+無所属(平沼新党も含む)が10議席前後となる。合計で55議席前後。ということは自民党と民主党は残る425議席の奪い合いだ。
政権獲得のメドとなるのは過半数の441議席。公明30とすれば自公政権存続の条件は自民党211議席以上、となる。逆に、民主党は241議席以上を獲得できなければ、他党との連立が必要。大雑把にいって、230議席前後なら社民党や国民新党・平沼新党と組めばすんなり政権が取れるだろうが、220議席となると共産党の協力が必要となってくる。
小沢代表はここにきて、次期総選挙の目標を聞かれると「最善は過半数、次善は野党で過半数、三善は比較第一党」と述べている。共産党との連立は考えにくいので具体的に言うと次善が230議席。ここまでは民主党政権だが、三善の比較第一党となると民主213議席、自民212議席などという可能性もあり、その場合民主が衆参両院で第一党なのに自公がかろうじて過半数で政権存続となる。
政権交代の条件は民主230議席
前述したように自民党の現有議席は304。党籍離脱中の河野洋平衆院議長らを加えれば306議席だ。例えば次期総選挙で自民党がちょうど過半数の241議席だった場合でも65議席の減少。選挙学でいえば「歴史的惨敗」だ。しかし、マスコミは結果を見てから見出しを付ける。多分「自民過半数維持で自公政権存続」が主見出し。続いて「民主伸び悩み、小沢氏の進退が焦点」となるだろう。さらに、自民党が過半数割れでも自公で過半数なら「自民過半数割れも与党過半数で政権交代なしーー首相の進退は微妙」となりそう。荒っぽく言うと、自公両党で過半数以上なら民主党政権は誕生しないので「自民惨敗」という見出しは付けにくい、ということだ。
となると、「自民惨敗ーー民主党政権誕生へ」という大見出しが躍るのは民主党の獲得議席が230以上のケースだけ。220議席前後では「自公過半数割れーー連立次第で民主党政権も」で、「政界再編含みで政局大混乱」という脇見出しが付きそうだ。
では、民主党は230議席以上とれるのか。比較的予測しやすい180議席の比例代表でみると、自民党が歴史的大勝を収めた前回の郵政選挙では自民77民主61。過去の実績からみて比例代表での自民と民主の合計は140前後なので、民主圧勝でも80議席が上限。となれば300小選挙区の半分の150議席以上の獲得が条件となってくる。
郵政解散並みの追い風が必要
ところが、8月1日現在で民主党が公認候補を擁立していない選挙区は57。その多くは福田首相、小泉純一郎元首相、小渕優子氏ら自民党が圧倒的に強いとされる選挙区。つまり、残る243選挙区で150以上議席を獲得しなければならない。全県一区の参院選と違い、地縁血縁のどぶ板選挙の色彩が濃い小選挙区で強固な地盤を持つ自公連合軍を6割以上の勝率で撃破するのは極めて難しい、というより郵政選挙での自民党に匹敵する追い風が吹かないととても無理というのが選挙関係者の共通認識だ。
「風が吹かなければ自分で走れ」と言ったのは小沢氏。しかし、各種世論調査を分析すると「自民党政権に期待できないので、なんらかの変化を期待して民主党に投票」という消極的支持が多い。とても、強力な追い風とは言えない。
「自分で走って風を起こす」ためのツールはやはり、国民をひきつけられる政策だが、多くの重要政策で党内の意思統一が出来ず、マニフェストも総花的な現状ではないものねだりに等しい。昨年秋の大連立騒動の際、小沢氏が吐露した「今の民主党では選挙に勝てない」という不安は解消されていないわけだ。
となれば、あとはパフォーマンスしかない。それも、衆院解散の記者会見で「殺されてもいい。国民に聞いてみたい」と絶叫し、前代未聞の刺客を送り出して「全国に熱風を巻き起こした小泉劇場」(自民長老)に匹敵する強力なアピールが必要だ。小沢氏にそれができるだろうか。
「小沢でなければ戦えない。でも、小沢首相というのは……」
小沢氏の政治的師匠はあの田中角栄元首相。育ての親は金丸信元自民党副総裁。いずれも故人だが、政界での活動に「光と影」が交錯していたことは誰もが知っている。現在の政界実力者で両氏と同様の「光と影」をあわせ持つのは小沢氏ただ一人といってもいい。しかも、人気取りのパフォーマンスとはもっとも縁遠い人物だ。
民主党若手がつぶやいた。「小沢代表でなければ選挙は戦えない。でも、小沢首相の実現を叫んで、果たして有権者の熱狂的支持が得られるのだろうか」。自民党長老は皮肉を込めて言う。「自民党は小沢民主党代表での選挙が一番よい。そして、民主党は福田首相での選挙を望んでいる。いわば、小沢と福田は弱者のもたれあいだ。岡田(克也=民主党副代表)に代わったら危ないが小沢なら直前に福田を麻生(太郎=前自民党幹事長)に差し替えれば政権交代はない」。
その岡田副代表は7月30日、各マスコミの代表者が集まった日本記者クラブの講演で9月21日の民主党代表選への出馬を否定した。一方の小沢氏は8月1日に出版される本のインタビューで「もうここまで来たんだから(首相を)やります」と明言した。「剛腕」「壊し屋」……。「政治家人生の最後の戦い」(小沢氏)で「光」が「影」を消すことができるのか。涼風が吹き出すころには、「政権交代」が唯一最大の争点となる総選挙へのカウントダウンが始まる。
(2008年8月1日記)
平河三郎 |
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