「波乱の『政局秋の陣』スタート」(2008年8月) 

 列島が沸いた北京五輪が閉幕、涼風とともに政局秋の陣が始まった。表舞台の主役はもちろん福田康夫首相だ。政権交代を目指す民主党との決戦の舞台となる臨時国会は9月12日召集と決まった。会期は70日間。解散含みの緊迫した展開が予想されている。首相の決断次第で永田町はすぐ、戦場と化す。しかし、福田首相を取り巻く情勢は厳しい。8・1内閣改造で持ち直しかけたかにみえた内閣支持率も「毒入り餃子」情報隠蔽や、太田誠一農水相の「やかましい」発言と事務所費問題などで再び低迷。首相の求心力は回復の兆しもみえず、自民党内には「福田首相での解散・総選挙など考えられない」との声が広がる。

 一方の民主党も9月21日の代表選が小沢一郎代表の無投票再選が確定的で、党内外から「政策論争を避けた」と批判が噴出。おまけに、渡辺秀央参院議員ら3人が脱党、新会派を結成する「分裂騒ぎ」も起こった。自民、民主両党がそれぞれ党内混乱を抱え、「年末年始には解散」という噂ばかりが駆け巡る永田町だが、「では、誰が解散するの?」「本当に選挙をするの?」と当事者の与野党国会議員が自問自答せざるを得ないところに、政局秋の陣の歪んだ構図が透けてみえる。

足して2で割った臨時国会日程

 五輪フィーバーの陰で、臨時国会の召集日や会期幅をめぐって政府・与党内でのすったもんだが続いた。福田首相は当初「8月下旬召集」の意向を示していたが、公明党が「9月下旬」を主張。また、会期幅についても自民党の「80日間」に対し公明党は「60日間」。結局は「足して2で割る」(自民執行部)9月12日召集、会期70日間で決着したが、与党内の足並みの乱れは福田政権の求心力不足を改めて浮き彫りにした。

 臨時国会では(1)景気対策のための補正予算(2)インド洋での給油活動継続のための特別措置法延長(3)消費者庁設置法――が主要テーマとなる。政府・自民党の思惑は、まず、補正予算を速やかに成立させて、「給油継続」と「消費者庁」を会期内で処理する、というもの。特に「消費者庁」は首相の肝いりであり、「給油継続」は日米関係の鍵となるだけに、後には引けない。ただ、公明党はかねてから「給油継続法案の強行可決」には慎重姿勢を示し、それが9月下旬召集・会期60日間の主張につながったとみられる。それだけに、首相にとって臨時国会は与党・公明党にも気を遣う「綱渡り」の運営を強いられる。

「政局国会」、全面対決の小沢民主

 対する民主党は臨時国会を「政局国会」と位置づけている。「年末・年始までに解散に追い込むことが最優先。法案審議より、あらゆるテーマで福田内閣の責任を追及する」のが基本戦略だ。小沢氏は「まさに、解散総選挙のゴングが鳴る」と檄を飛ばす。アフガニスタンで非政府組織(NGO)の日本人が殺害された事件との関連で改めて注目される「給油継続」法案についても、与野党協議に応ずる姿勢をみせず、「全面対決」の構えだ。

 福田首相にとって、政局秋の陣はまさに「障害物競走」(自民幹部)。「一つでも失敗すれば政権の危機に直面する」(同)ことは間違いない。そうした中、8月下旬になって発覚した太田誠一農林水産相の事務所費問題は、首相にとって「泣きっ面に蜂」だ。というのも、太田氏はすでに、閣僚就任直後のテレビ番組で食の安全に関する消費者の態度を「やかましい」と発言して顰蹙を買ったばかりだから。

 事務所費について太田氏自身は「問題ない」と強気で、進退を聞かれると「そういう質問は理解できない」と開き直った。だが、与党内では「早く首を切らないと、臨時国会が冒頭から混乱して最悪の事態となる」(公明党幹部)との厳しい声も聞かれる。民主党も「問題ないというなら、すべての領収書を証拠としてみせればよい。それが出来なければ辞めるしかない」(鳩山幹事長)と意気が上がる。太田氏の説明が不十分で、反省の意も示さないまま臨時国会に突入すれば、野党多数の参院で農水相問責決議案が可決するのは確実だ。それだけに、首相は厳しい判断を強いられる。いたずらに「様子見」を続けて国会混乱を招くようだと、自民党内で「福田降ろし」の動きが始まりかねない。

誰にも読めない福田首相の腹の内

 こうしてみると、臨時国会は「何が起こってもおかしくない」(社民党幹部)状況だ。もちろん、起こりうる最大の「事件」は解散・総選挙、それとは裏腹の「福田首相退陣」だろう。だからこそ、召集前から「解散」や「総辞職」という言葉が飛び交っているのだ。ただし、そのいずれも「福田首相自身が決める事」。従来の自民党なら「実力者達が首相とひそかに話し合って解散する」「長老が因果を含めて首相に退陣を迫る」ことも有り得た。しかし、今の自民党にはそれのできる長老も実力者も存在しない。派閥の領袖の多くが「飾り物」扱いされているのを見ればよく分かる。したがって「すべては福田さん次第」なのだ。しかも、ご当人は「誰にも腹の内を見せない孤高の人」。誰にも読めないのが現実だ。

 現在の衆院議員の任期切れは来年9月10日。あと一年だ。小泉純一郎元首相ではないが「一年以内に必ず選挙はやってくる」ことは確か。

 ここにきて、永田町ではさまざまなケーススタディが出回っている。それを大きく分けると解散に関しては@臨時国会中A来年1月の延長臨時国会会期末か通常国会冒頭B通常国会中C任期満了――の四つだ。まず、@は政府が大型の補正予算を組んで9月下旬に国会に提出、その成立を受けて解散、というケース。日程的には10月下旬に解散、11月下旬に投票ということになるが、「何事にも慎重な首相がそんな大胆な決断をするとは思えない」との声が支配的。

給油特措法が絡めば「年末・年始」解散に

 (2)のケースは「給油継続」の特措法絡み。特措法の審議入りは補正成立後となるので、衆院通過は11月上旬。となれば参院で民主党が反対する限り前回同様に「60日後衆院で再議決」とならざるを得ない。その場合は特措法の期限切れが来年1月15日なので、そこまで臨時国会を延長して再議決することになる。その上で、解散ということ。ただ、総合景気対策を盛り込んだ来年度予算案をアピールするためには、来年1月召集の次期通常国会冒頭の施政方針演説を受けての解散も選択肢。その場合、投票日は2月上旬となる。いま、永田町で本命視されている「年末・年始解散」というのはこのケースのこと。福田首相が予算成立の遅れを覚悟して解散に打って出るかは、本人の考え方次第だ。

 (3)のケースは来年度予算成立後の解散。予算関連法案処理も含めれば5月連休前後の解散で投票日は5月末か6月上旬。何事も手続きを重んじる福田首相にとっては一番自然な形の解散。ただ、7月の東京都議選に力を集中したい公明党が強く抵抗しそう。加えて、内閣支持率が低迷したままだと予算成立直後に自民党内から「福田降ろし」の動きが起こる可能性もあり、首相が解散にこぎつけるのは容易ではなさそう。

「父の悲願を」か「政策実現優先」か

 (4)は「結局、解散には踏み切れなかった」ケース。夏に国会が開かれていなければ、投票日は8月30日か9月6日。ただ、福田首相の自民党総裁としての任期が9月末なので、総裁選が一ヶ月程度前倒しされると、条件が変わる。つまり、総裁選で麻生太郎氏など新しい人物が選ばれれば、臨時国会で首相指名を受けて新内閣を発足させた上での任期満了選挙となるため、9月下旬以降にずれ込む可能性もある。

 以上のどのケースになるのかは、福田首相の考え方次第。父・赳夫氏がやろうとして出来なかった「解散」を自らの手で断行したいと考えるのか。それとも、「解散」にはこだわらず、経済対策など政策実現を優先して任期満了選挙を選ぶのか。麻生氏との禅譲密約説の真偽も含め、秋以降、永田町スズメは感覚を研ぎ澄ませて福田首相の一挙手一投足を凝視することになる。

(2008年8月29日記) 平河三郎


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