◎“攻めドジョウ”への変身で解散風加速―2012年消費税政局?

 2012年がスターとして間もなく1カ月。大寒波の襲来で列島が凍りつく。1月20日には東京全域に積雪があり、道路の凍結で国会議事堂周辺でも転倒者が続出したという。政治家の誰もがつぶやく。「今年は選挙がありそう。滑ったり、転んだりしたら大変」。通常国会が始まったばかりだが、衆院議員は「金帰火来」で田の草取り(選挙運動)にいそしむ。もちろん、国会攻防の最大の争点は「消費税」。歴代政権が挑んでは挫折した「極め付きの難題」(首相経験者)だ。民主党3人目の野田佳彦首相がその難題に挑む。「政治生命を賭けて」「不退転の決意で」と決意の言葉を重ね、自民党など野党に対しては「決められない政治からの脱却」を訴えて、消費税増税への与野党協議を呼びかけている。しかし、野党第1党の自民党は、もともと「消費税10%」を掲げて一昨年夏の参院選で勝利を収めたはずなのに「協議拒否」の姿勢を崩さない。「民主党マニフェストには消費税増税なんて書いてない。まず、国民に信を問うべきだ」(谷垣禎一自民党総裁)の一点張り。しかも、肝心の民主党内でも小沢一郎元代表が「反増税」で100人を超える議員を束ね、新党結成も視野に野田政権に揺さぶりをかける。「腹背に敵」の野田内閣、このままでは年度末までに消費税増税関連法案を閣議決定が出来るかどうかも覚束ない。まして、首相の言う「通常国会での消費税増税法案の成立」など「ほとんど不可能」(民主党若手)にも見える。だからこそ、衆院議員は混乱の果ての解散・総選挙に備えて毎週末、選挙区に散るのだ。「消費税政局」イコール「解散・総選挙」というわけだ。

 そうした中、1月16日の民主党大会。党代表の首相はついに「解散」を口にした。「やるべきことをやり抜いて、民意を問う」。“逃げドジョウ”からの変身。自ら「君子豹変」と宣言しての中央突破宣言。1月24日の国会召集日の施政方針演説、26日からの各党代表質問でも繰り返し“攻めドジョウ”の姿勢をアピールした。「攻防の節目」は年度末の3月、会期末の6月、そして民主党代表選と自民党総裁選が予定される9月。どのタイミングで「伝家の宝刀」を抜くのか、それとも抜かずに延命をはかるのか…。寒風吹きすさぶ永田町で、首相自身さえ結末を予測できない「消費税政局」の第一幕が始まった。    

 ◇「ブーメラン」演説の動画がお祭り状態に

 いま、「ブーメラン」という言葉が永田町を飛び交っている。もちろん昔のアイドル歌手のヒット曲の話ではない。民主党と首相に対する揶揄、批判の際の“合言葉”だ。

 「マニフェスト、イギリスで始まりました。ルールがあるんです!書いてあることは命懸けで実行する。書いていないことはやらないんです。それがルールです」  

 「書いてないことを平気でやる。これっておかしいと思いませんか!それはマニフェストを語る資格がないってことです」

 「みなさんの税金には天下り法人がぶら下がっているんです。シロアリがたかっているんです。それなのに、シロアリを退治しないで今度は消費税を引き上げるんですか!シロアリを退治して天下りをなくす。そこから始めなければ消費税を引き上げるという話はおかしいんです」

 これは2年半前のあの政権交代選挙の投票日直前、民主党幹部だった首相が大阪で街頭演説した時の台詞。大きく手を振り、声を張り上げて有権者に訴える首相に聴衆は拍手喝采していた。

 この動画は年明けから間もなく、首相が消費税増税の決意をアピールしたころからインターネットの動画サイトに投稿され、多くのネット族が見る、いわゆる「お祭り」状態になっている。民主党はこの選挙で300議席を超える大勝利を収め、念願の政権交代を実現した。その原動力となったのがマニフェストだ。首相が「マニフェストを語る資格がない」とこき下ろしている相手は、当時の自民党、そして解散した麻生太郎首相だ。  ブーメランは、空中で獲物に当たらないと、大きな曲線を描いて投げた本人のところへ戻ってくる。当たれば怪我をする飛び道具だ。誰が聞いてもこの街頭演説の言葉は戻ってきたブーメランのように首相を直撃している。だからこそ、ネットで数十万人が視聴して笑い転げ、そして、怒りにふるえたのだ。  
 
 ◇首相の「奇策」は逆効果にー施政方針演説

 1月24日午後、衆参両院本会議で行われた施政方針演説。首相は冒頭でなんと、福田康夫、麻生太郎両元首相の施政方針演説の「決め台詞」をそのまま自らの演説に取り入れるという「前代未聞の奇策」(自民党国対)で勝負に出た。たしかに、麻生首相(当時)は3年前の施政方針演説で消費税増税について「持続可能な社会保障制度を実現するには、給付に見合った負担が必要です」「経済状況を好転させることを前提として、遅滞なく、かつ段階的に消費税を含む税制抜本改革を行うため、2011年度までに必要な法制上の措置を講じます」「これは、社会保障を安心なものにするためです。子や孫に、負担を先送りしないためであります」と力説したのは事実。

 首相はこれをそのまま読み上げ「私の言葉ではありません。3年前、当時の麻生総理がこの議場でなされた施政方針演説の中の言葉です。私が目指すものも、同じです。今こそ立場を超えて、全ての国民のために、この国の未来のために、素案の協議に応じていただくことを願ってやみません」と与野党協議に応じるのが筋だとアピールしたのだ。この奇襲作戦に初めはあっけに取られていた自民党席だが、すぐ、野次と怒号で応戦した。「何を言ってるんだ」「反対したのはお前だろう」…。

 当時、野党第一党だった民主党は自民党が打ち出した「2011年度中に消費税増税を含む税制改革の具体策を決定する」という方針に真っ向から反対した。それを、全く忘れたかのように「自民党が言ったことをそのまま実行しようとしているのだから、協力するのが当たり前」といわれれば麻生氏でなくとも怒るのは当たり前。久しぶりに本会議直後にテレビカメラに囲まれた麻生氏は、いつものように口を歪めて「クリンチされた感じだけど、そもそも民主党は1回でもマニフェストは間違っていましたって謝ったかい。俺は一回も聞いてねえぞ」とベランメエ口調で不快感を露にした。麻生内閣はその半年後に民主党から内閣不信任案を突きつけられ、その賛成討論で麻生氏を厳しく攻撃したのが野田首相なのだから怒りがこみ上げるのは当然だろう。   

 ◇「まず国民に謝って信を問え」―谷垣総裁

 この「奇策」は首相自らが年初から周辺に指示していたとされる。首相側近は「解散しろとしか言わない自民党の無責任さを浮き彫りにして世論を味方につける作戦」と胸を張った。しかし、自民、公明両党だけでなくみんなの党など他の野党も逆に反発し、温厚な谷垣総裁も「ふざけんじゃねえ」と怒り狂って改めて与野党協議拒否を宣言。26日午後の代表質問でもネット動画での「ブーメラン」演説を取り上げ、「嘘を言ったのだから、まず国民に謝って、信を問うしか道はない」と声を張り上げた。

 もちろん、自民党内には「消費税の10%への引き上げはもともと自民党の政策。政権奪回を狙うならむしろ、消費税では民主党に協力するのが責任政党としての見識」(有力議員)との声も少なくないが、首相の奇策に対しては「嫌がらせのようで、政局より大局という割りに小細工が過ぎる」(同)と眉をひそめる。たしかに「大きな政治を」と言う割りには低次元の争いで「まるで子どもの喧嘩」(自民長老)。国民はこうした泥仕合に首相や民主党だけでなく自民党にも批判の目を向け、政治そのものへの不信感を一層深めていることに与野党のリーダーたちが気づかないことが問題なのだ。   

 ◇橋下市長が断トツー「リーダー」調査

 「リーダー論」で言えば興味深い世論調査結果が永田町で話題になっている。某マスコミが実施した「日本のリーダーに最もふさわしい人物」という調査だ。断然トップは国会議員ではなく橋下徹大阪市長(21.4%)。2位が石原慎太郎都知事(9・6%)。3位がようやく国会議員で岡田克也副総理(8.3%)。自民党議員の最上位(5位)が石破茂前政調会長(5.8%)で、首相は9位(3・6%)、谷垣総裁にいたっては13位で支持率はわずか1%だった。もし、夏までに総選挙があれば、国民はトップリーダーとして「野田首相か谷垣総裁か」の選択を迫られる。「この調査が率直な国民の声ならば、投票に行く気が起こらないはず」(みんなの党)といわれても仕方がない。

 その橋下市長は「大阪都構想」実現を掲げて、向かうところ敵なしの“快進撃”を続けている。「大阪から日本を変える」と叫ぶが、近い将来、国政に打って出ることは確実、というのが政界事情通の共通認識。橋下市長はここにきて自らが主導する大阪維新の会の活動強化のための「維新塾」を400人規模に拡大させ、次期衆院選で全国に300人の候補者を擁立し、200議席獲得を目指す考えをぶち上げた。また、これに呼応するかのように、石原都知事も亀井静香国民新党代表や平沼赳夫立ちあがれ日本代表らと組んで3月の新党立ち上げに意欲を示している。しかも、石原氏は昨年秋の大阪府知事・市長ダブル選で橋下氏の応援演説に出向くなど、橋下氏との連携も模索している。橋下市長との連携を探るみんなの党や小沢元代表の動きも含め、解散・総選挙後の「政局大混乱―政界大再編」を視野に入れた政局的蠢きであることは明らかだ。

 「民主党も自民党も2大政党としての存在理由を失いつつある」(首相経験者)。たしかに、各種世論調査でも民主党の支持率が急落したのに、自民党の支持率も横ばいか下落傾向が続く。その分、無党派層が拡大している。国会議員は選挙が最優先。「落選すればただの人以下」というのが永田町の常識。解散風が吹き始めると、「選挙に勝てるかどうか」がすべての判断基準となる。首相はそれを「小さな政治」と指弾し、「政局より大局」「選挙より国益を」と訴える。“攻めドジョウ”への変身の原点だろう。多くの有権者も評価している。問題は、今後の消費税政局で、それを貫き通す揺るがない決意と強力な指導力を示すことができるか、だ。   

 ◇最善のシナリオは消費税法成立での「話し合い解散」だが…

 消費税政局の結末は誰もが予測不能。ただ、政界、官界、財界、マスコミ界の有力者が考える「最善のシナリオ」はほぼ一致している。@与野党が真正面から議論して消費税増税法案を通常国会で成立させるA衆院定数是正など政治家が身を切る改革も合わせて断行するBその上で、速やかに解散して、総選挙結果を踏まえて新しい政権の枠組みをつくるーの3点。要するに6月か9月の「話し合い解散」だ。お互いの過去をあげつらい、ののしりあう「子どもの喧嘩」などは止め、首相の言う「選挙より国益」を国会議員全員が胸に刻み込んで、消費税増税も含めた日本の将来像を真剣に議論して決めるべきことは決めないと、日本株式会社は破綻するという思いは同じなのだ。そうした認識を首相や与野党幹部が共有することしか、消費税政局の結末を国益に結びつける方法はない。与野党を問わず、すべての政治家の「資質」が問われている。

(平成24年01月29日記) 泉 宏


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