質問「『東南アジアでの軍備増強について』他

(平成9年3月3日参議院国際問題に関する調査会会議録より抜粋)


(前略)
○山崎力君 時間もありませんので、簡単に両先生にお伺いしたいと思います。
  一つは、いろいろな議論はあるんですが、結論として、軍事力を伴わずに経済的ではなくて政治的な面で発言力を持つということが可能かどうかという点が一点でございます。
  そしてもう一つの点は、中長期に見て大陸中国がいわゆる南沙諸島の問題でそこへ進出してくる可能性が一番の問題点であろうと思います。これはエネルギー問題と絡んでということです。そして、対応策として、その辺のところの軍事的なことは余りアジアの方々は考えていないというか、緊急課題でないというような先生のお話もありましたが、今世界的に見て一番兵器の売れている国はアジア諸国です。一番軍備強化しているのはアジア諸国です。そういった背景を見ると、経済力が出てくれば、そこにその国なりの重要度が増してくる、衝突が起きる可能性が出てくるということも意識しての行動ではないかというふうに私は思っております。
  ということは、長期的に見ると、東南アジア諸国と言われているところでも北東アジアと同様に経済的な利害衝突による紛争が起きてくる、そのときの仲裁の役割を果たせるのはやはりアメリカではないかというのが私の中長期的な考え方なんですが、そこのところにアメリカに要請されて日本が出ていくという不幸なことがないように願っているんですが、その辺のところの現状認識を両先生からお聞かせ願いたいと思います。

○参考人(プラサート・チチャイワタナポン君) 先生ありがとうございました。山崎先生の御質問は三つ四つありました。
  まず、軍備増強の問題ですけれども、おっしゃるとおりアジア地域は武器の最大の市場であり、これは間違いないと思います。アフリカ、ラテンアメリカなど、向こうの経済発展はおくれていますから、この地域のマーケットはとても大きい。
  しかし、この地域において国防費の増加率を見ますと、その増加率の低下も事実です。うちのタイの国は、最近の課題とされました空母の調達はスペインから、またF18戦闘機、また潜水艦をタイの海軍が欲しい、こういうような懸念がいろいろあるんですけれども、しかし防衛予算を見てもその増加率がだんだん減ってきたことは見逃してはいけないと思います。
  例えば、うちのタイの国の場合は、防衛予算の増加率を見ますと、九二年は二〇%、九三年は一〇%、半分低下しました。九四年は一三%、また九五年は一〇%、これはドルで換算する場合です。タイのバーツで換算する場合はもっと低いです。九二年は二〇%、九三年は八%、九四年は一五%、それで九五年は七%に減ったわけです。
  国の一般会計予算の方は増加率がもっと高い。
  これは明確です。潜水艦の購入は、タイの海軍が欲しいですけれども、やっぱりなかなか閣議決定はできなかった。海軍はもうプッシュをやめたと聞きました。新しいF18の購入も凍結されました。空母の調達は予定より一年おくらせました。
  こういう動きで、タイだけじゃなくてほかの東南アジアの国々を見ても、GDPに占める防衛予算はそんなに高くないです。例えば、タイの場合は九四年に二・七%です。GDP、国内総生産に占める防衛費は二・七%です。インドネシアの方はもっと低い一・五%、フィリピンは一・四%。
  やっぱり日本の防衛予算は金額がとても大きいと我々は見ています。日本の海軍は世界ランキングでも非常に強力で、潜水艦も十六隻あって、P3Cも百機持っています。大変能力の高い武器を日本は持っている。
  私は、余り悲観的には見ていないです。衝突という可能性、それを管理する体制はできています。ASEANのメカニズムを通じて、アメリカの軍事的なプレゼンスがなくても、ASEANの中でそれを管理することができると自信を持っています。南沙諸島の方も、最近の動きを見て中国もその話し合いの場に応じました。これもいい方向になっていく、だろうと思います。
  米軍の基地の役割は、やっぱり北東アジアの方には非常に存在理由はあります。東南アジア地域内は、我々は余り認識していない。カンボジア紛争時代、ベトナムは大量の軍隊をカンボジアに、約十八個師団でカンボジアを占領したとき、そのときタイとカンボジア国境にベトナム軍の師団がたくさん集中しました。こういうような危機に直面するとき、アメリカは何も我々にこたえてくれませんでした。米軍基地のメリットは地域内にはだんだん減ってきたことが我々の認識です。やっぱり北東アジアだと思いますね。
  以上です。
○参考人(リム・ホァシン君) 簡単に。
  まず第一点は、軍事力を伴わない政治力、外交力の強化は可能かどうか。結論的に言いますとそれは可能です。また、そういうふうな方向へ持っていかなければ大変厄介なことになると思いますね。
  歴史的に見れば、大英帝国とかポルトガルとかスペインとか、アメリカもそうだったんですけれども、政治力、外交力を強化するために軍事力でもって君臨した。しかし、結果的に言いますと、みんな失敗しちゃったんですね。大国の興亡、大国の盛衰を見てみますと、そういうような軍事力を背景に世界に君臨する国はみんな失敗ですからね。だから、日本はどういうふうに経済大国にふさわしい外交、政治、発言力を強化していくか。
  それは皆さん先生方の責任だと思います。
  シンガポールの人口は三百万人です。淡路島の面積で、東京の人口の三分の一以下でしょうが、シンガポールの国際的な外交上の発言力は無視できないと思います。スイスだってそういうふうに評価してもいいと思います。だから、別にシンガポールとかスイスとかは、外国を侵略したり派兵したりするような行動をとらない。そうだとすれば、軍事力を伴わない政治、外交、経済大国になることは可能です。それが理想的だと思います。
  それが第一点です。
  第二点は、西沙・南沙群島の石油、ガスの利権に中国が介入する、戦争あるいは紛糾が起こるんじゃないかというような御質問なんですけれども、この点について私は楽観的です。戦争は起こらないと思います。
  なぜかといいますと、西沙・南沙群島は、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、当然タイとか台湾とかが絡んでくるんですけれども、主権を主張するんですが、中国も最初は二国協定、二国会談にしか臨まなかったんです。例えばフィリピンとか、あるいは二国で解決する。つい最近は態度が軟化して、態度が変わってきたんです。中国と関連諸国との多国間会談にも臨むと、態度が軟化してきたんです。やわらかくなってきたんです。中国はやっぱりアジア、世界に見せなければいけません。中国は武力で、大国の姿勢でアジア各国の小さい国に圧力をかけて西沙・南沙問題を解決する姿勢を見せていないから、だからまずこの地域の戦争は起こらないんじゃないかなと私は見ています。
  最後に、アジア各国の軍事費の支出が増加してきた、いざとなるとアメリカが介入して問題解決に乗り出すんじゃないか。そういうような可能性がないことはないですね、否定できません。
  しかしながら、私の言いたいことは、経済発展をなし遂げてきたでしょう。一人当たりの国民所得もふえてきたし、当然軍事費の支出もふえてきます。その最大の責任はロシアとアメリカです。
  冷戦構造が崩壊してどんどん開発途上国に武器を売却しているんだから、その責任は基本的にロシアとアメリカにあるんじゃないかなと思うんです。
  しかしながら、幸いASEAN諸国は、一枚岩とは言えないですけれども、多少疑心暗鬼もあるんですけれども、しかし定期的に首脳の会談、交流はありますから、互いに不信感はあるんでしょうけれども、経済権益のために戦争を起こす可能性は非常に低いと私は見ています。
  以上です。
(後略)