質問「日米防衛協力の新たな指針について

(平成9年12月3日参議院本会議会議録より抜粋)


(前略)
○議長(斎藤十朗君) 山崎力君。
    〔山崎力君登壇、拍手〕
○山崎力君 私は、平成会を代表いたしまして、ただいま政府より報告のありました日米防衛協力の新たな指針、いわゆる新ガイドラインについて橋本総理に見解を伺うものであります。
  まず、今回の指針は、およそ二十年も前の昭和五十三年に策定された従来の指針のうち、その中で単なる検討項目だけ示されていた「日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の日米間の協力」、いわゆる第三項の具体化と言ってもよろしかろうと思うのであります。
  そこで、この新ガイドラインヘの私の率直な第一印象を言わせていただきます。個々の内容の是非はともかくとして、今後の防衛方針の重大な進路決定に関する今回の問題でありながらも、法治国家であるとされながら我が国の宿痾とも言うべき法に対する基本認識の欠如が見られると言わざるを得ないのであります。
  さらに、現橋本政権、さきの村山政権で特に目立ってきた懸案先送りとせっぱ詰まってからの泥縄式対応との感がぬぐい切れません。本質論の技術論へのすりかえも見られ、そうした結果、政策、理念、立法上の一貫性がここでも感じられないのであります。
  もとより、日米防衛協力の実効性を高めるために新指針が全く役立たないと言っているのではありません。むしろ、意義ある一歩前進とさえ思っております。とはいえ、この策定に関する関係者の努力は多とするも、残念ながら本質的課題に目をつむったままの小手先の感がするのであります。
  私がかって最も不得意とし、悪夢であった数学を例にとれば、曲面上の問題であるにもかかわらず、無理やり平面とみなしてユークリッド幾何学の定理をもって問題を解こうとするのに似て、その努力にもかかわらず解答につじつまの合わない部分が次々と出てくる、そうした感が否めないのであります。順次、総理の所見を伺ってまいります。
  第一に、法体系上の問題であります。緊急は法を持たないとの法格言はありますが、予測し得る事態にはなるべく事前に法整備を行おうとするのが法治主義の一つの原則であります。同時に、法体系の整備を通じてその一貫した理念を明らかにして、既成法規で対応できない事例に対し、新規立法や類推解釈をするのが近代法治国家運営の要請のはずであります。今回の新指針に関して言えば、可能な限り、関係者、特に自衛隊がいわゆる超法規的行動をとらなくてもよいようにする、そういった法整備をすることが必要なはずですが、その点がどうも見えてこないのであります。
  一国の安全保障政策とそれを裏打ちする法体系整備は、法治国家としての義務だと思います。その手順は、まず、独立国家日本の防衛、安全保障のあり方を法定すべきだと考えます。その点、国家の緊急時に対応する法体系は、政府自身が認めるがごとく整備されたものとはなっておりません。現実にも阪神・淡路大震災の混乱で証明されております。
  そうした緊急事態対応の法体系を整えた上で、次いでその理念に基づいて、我が国並びに世界の現状から、他国、具体的に言えば米国との防衛関係はいかにあるべきか、あるいは国連との協力関係をどうするかといった法や条約の整備に当たり、その次に初めて今回のいわゆる我が国の領土、領海外の周辺事態における協力をどうするかといった手順であるべきだと思うのであります。
  ところが、政府自身が認めるように、旧ガイドラインから二十年近くたった現在も我が国一国で対応すべき法体系すらいまだ研究はしても未整備であり、懸案先送りの結果であります。その上、今回の新ガイドラインから、逆に国内法上の問題点を洗い出し、立法をしょうとしております。まさに作業手順が逆、本末転倒の立法作業と言わざるを得ません。悪く言えば、対米通商問題でよく言われた、いわゆる外圧を利用した立法作業とも言えると思うのですが、その点、総理の御認識を伺います。
  第二に、単に立法作業の手順の問題だけではないという点です。最高法規としての憲法があり、それに違背した法律等は認められません。そしてその是非はともかく、我が日本国憲法では、集団的自衛権はあるがその行使は認められない、事実上はないとの奇異な解釈を政府はしており、さらに国の交戦権は認めないと規定されている、世界的にも異質な内容となっております。
  言うまでもなく、国家の自衛権、個人の正当防衛権は天賦の権利と言うべき生存権を担保する権利であり、何者も否定する性格のものではありません。そういえば、国家としての自衛権はあるがその具体的担保装置は認められない、事実上はないとの集団的自衛権に関する政府見解そっくりの学説が存在し、それを党是とした有力政党がつい先日まで存在し、それが何の論議、説明もないまま一夜にして撤回、政権におさまるという事態があったことは記憶に新しいところであります。さらに、日米安保条約自体、前文で、国連憲章に定める「集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、」となっているなど、そもそも集団的自衛権の扱いは釈然としない内容になっております。
  これらの点に関連して、まず、今回の指針による周辺地域における対米協力が日米安保条約のどこに根拠を置く約束なのかという疑問があります。もし単に他の協定等も含めたいわば全体的文
脈からというのであれば、事の性格上少しく拡張解釈に過ぎると思うのですが、総理の見解はいかがでございましょうか。
  日米安保条約を見るとき、政府見解は、大づかみに言えば、日本の義務は基地提供義務のみの片務性ゆえに集団的自衛権の行使には当たらないとのことではありますが、安保条約のいわゆる六条事態における米軍の基地使用、特に当然事前協議の対象となるとは思いますが、直接出撃の基地使用を許すこと自体が集団的自衛権の行使と受け取られることは国際的な常識と思うのですが、いかがでしょうか。
  そして、我が国自体にいまだ攻撃のない状況下で、米軍の直接出撃を許す六条事態が、集団的自衛権を否定し、交戦権を否定する憲法解釈下で許される理由をあわせてお尋ねいたします。
  この交戦権否定の件で言えば、今回の指針は明らかに従来の安保条約で約束していた義務をより一歩進めた、領土領海外の周辺地域での防衛協力を約束しております。いわゆる武力行使一体化論を絡めて、新ガイドラインの協力内容は憲法の許す範囲内にあるとはこの件に関する政府説明のいわば口癖でありますが、そもそも交戦権を否定した憲法下において、どの程度、領土領海外で軍事協力が可能なのか、軍事行動ができるかという、諸外国には例のない法的吟味が必要であり、その内容をまず国民に明らかにした上での範囲内であって、論の立て方がここでも逆であります。
  この交戦権の初歩的問題として、我が国が不幸、交戦に至った場合、みずからの交戦権を否定している日本国が相手国の交戦権を認めるかどうかという問題があります。もし認めるなら、何ゆえみずから認めない権利をいわば敵国に認めるのかとの論拠を明らかにすべきだと思います。もし認めないとすれば、特に領土領海内に侵入した相手戦力は、国際法上無法の存在、制服は着ていても一国の兵士とは言えず、ジュネーブ条約の戦時捕虜に当たらない、いわば海賊、山賊のたぐいの犯罪者ということになります。そのように対応することが果たして適当かどうか、いかがでしょうか。言葉をかえれば、日本に侵入したいわゆる敵国兵に対する取り扱い法規があるかどうか。もしないならばその理由、どう対処するつもりなのかをお尋ねいたします。
  第三に、国連との関係であります。日米安保条約自体、国連あるいは国連憲章の目的や原則を尊重することがまず前文でうたわれております。そして国連軍による戦闘行為が、まさにさきの大戦後我が国の周辺で発生し、しかもその戦争はいまだ休戦状態にあります。そしてその際に我が国は国連軍に対し協力する地位協定が策定され、現在も存続しているはずです。まただれもが、今回の指針が役立つ不幸な事態の一つにその休戦協定が破られた事態を想定していると思うのであります。
  その際、国連軍への協力をどうするか、国連の旗のもとの米軍に新ガイドラインの協力ができるのかどうか、また米国と国連の二重の籍を持つ形となる米軍はともかく、他の国の国連軍に新ガイドラインはどう対応するのか。いわば一体となって行動する国連軍に、一方は米国兵だから救助等協力しまずけれども、他方は違うから救助できませんといった行為が許されるのかどうか。もし、国連軍対応を想定していない、休戦協定破棄の事態を想定していないというのであれば、それこそ国際常識から見て何のための今回の策定作業かと言うべきでありましょう。お考えを伺います。
  第四に、今回の指針の具体例として、いわゆる臨検についてお伺いします。
  これはまさに交戦権の一つとして国際法上認められている行為の典型例であり、政府がいかに弁明しようとも、我が国においては違憲の疑いの最も強い協力行為と言えます。だからこそ、この問題に関してのみ、国連との絡みの表現をとることによって、国の交戦権否定を国連の交戦権への参加というすりかえた形で切り抜けようとしているとしか思えないのでありますが、いかがでしょうか。
  また、そこまで考えるなら、米軍への協力のみならず国連軍への協力、少なくとも新ガイドラインを準用するという考え方はないかどうか、お尋ねいたします。
  いずれにしろ、今、新ガイドラインの賛否、是非はともかく、今回の指針が従来の日米安全保障条約上の確定解釈されていた義務から一歩踏み出した行動をとることを米国側に日本政府として約束したことは確かだと思います。であるとすれば、やはり今後の国内法整備の際にというこそくな方法ではなく、この新ガイドライン自体の国会での審議を深め、承認案件とすることの方が妥当であると考えます。憲法を初めとする関係法体系の再吟味とあわせ、その方がむしろ日本国の安全保障への考え方を国民に、ひいては諸外国により理解してもらえると思うのでありますが、総理はこの点についてどのようにお考えでしょうか。
  論は飛ぶようですが、橋本総理は後楽園と呼ばれる大名庭園が二カ所あることを御存じだと思います。一つは、総理の郷里岡山の烏城にある名園であり、もう一つは一般的には東京ドーム、後楽園球場の名で知られておりますが、これは隣接する旧水戸藩上屋敷の小石川後楽園の名をかりたものであります。いずれも中国の宋代の古典「岳陽楼記」の中にある為政者の心構えを示す言葉として名言とされる「先憂後楽」からとられたとされております。その「先憂後楽」の話を導く形での文節、「廟堂の高きに居ては、則ち其の民を憂え、江湖の遠きに処りては、則ち其の君を憂う。是れ進むも亦憂え、退くも亦憂う。」を思い出すのであります。
  橋本総理、あなたはまさに今、廟堂の最も高みにおられます。今回の新ガイドラインの関連で言えば、先日、総理みずから相模湾上で観閲した自衛隊員を初め、万一の際に命をかけて事に当たる江湖の人々に命を下す最高責任者であります。その万一の場合を憂えずしてよしとするならば、指針はもとより、日米安全保障条約も自衛隊員の厳しい訓練も、自衛隊、防衛庁自体必要ないわけであります。
  失礼を承知の上でお尋ねします。総理にそうした立場にある自覚がおありでしょうか。もしあるとするならば、何ゆえ、今話題の、今後のあるべき行政を形で示すと意気込まれている省庁統合問題において防衛庁の省への昇格に関して否定的な態度をとられるのでしょうか。
  その点に関して総理の存念をお伺いして、私の質問を終わります。
(拍手)
    〔国務大臣橋本龍太郎君登壇、拍手〕
○国務大臣(橋本龍太郎君) 山崎議員にお答えを申し上げます。
  まず、安保政策と法体系整備についてのお尋ねがございました。
  この指針は、新たな時代の日米防衛協力のあり方の一般的な大枠や方向性を示すものであります。指針は、政府に立法、予算、行政上の措置をとることを義務づけるものではございませんが、政府としては、緊急事態対応策の検討の状況なども考慮しながら、今後、必要かっ適切と考える措置をとる考えでありまして、本末転倒あるいは外圧利用といった御批判は当たらないものと私は思います。
  次に、周辺事態における協力の根拠についてお尋ねがありました。
  日本の平和と安全に重要な影響を与える周辺事態に対応する米軍への協力は、日米安保条約またはその関連取り決めの具体的な規定に直接の根拠を置くもの以外も含まれますが、日本と極東の平和及び安全の維持という同条約の目的に合致するものであります。
  次に、安保条約と集団的自衛権などの関係についてのお尋ねがございました。
  日米安全保障条約及びその関連取り決めに基づく日本国から行われる米軍の戦闘作戦行動のための基地としての施設・区域の使用について応諾を与えることは、実力の行使には当たらず、我が国憲法の禁ずる集団的自衛権の行使には当たりません。
  また、交戦権、ジュネーブ条約等についてのお尋ねがございました。
  国の交戦権については、我が国憲法はこれを認めない旨を規定いたしておりますが、我が国が憲法の認める自衛権を行使するに当たりまして、ジュネーブ条約を含む国際法を遵守すべきことは当然でありますし、このことは自衛隊法にも規定されているとおりであります。
  次に、国連軍に対する協力についてのお尋ねがございました。
  御指摘のような休戦協定が破られたといった仮定の質問にはお答えをすべきではないと思います。指針は、国連軍に対して協力を行うことを想定して策定されたものではございませんけれども、国連の活動に対する協力にも配慮いたしております。いずれにせよ、我が国は国連に対する協力につきましても引き続き米国と密接に協議、協力してまいります。
  次に、船舶の検査、国連軍への協力についてのお尋ねがございました。
  我が国が行うことを想定している船舶の検査は、国連安保理決議に基づく集団安全保障措置でありまして、交戦国の国際法上の権利の行使ではございません。また、指針は、国連軍に対する協力を想定して策定されてはおりません。今申し上げたとおりであります。国連の活動への協力にも配慮しており、対国連協力につきましても引き続き、先ほども申し上げたとおり、米国と緊密に協議、協力をいたしてまいります。
  次に、ガイドラインの国会承認についてのお尋ねがございました。
  指針に係る国会での御議論に政府が協力していくことは当然であります。しかし、指針は条約ではございませんので国会承認の対象にはなりません。他方、今後の作業を踏まえ、法律の制定、改定等が必要な場合、当然国会にお諮りをしなければなりません。指針については、内外に対し透明性を確保することが重要であり、今後とも必要に応じ内外に御説明をいたしてまいります。
  次に、防衛庁を省とする問題について、私の所見をお尋ねになりました。
  先刻もお答えを申し上げましたけれども、私自身、国を守るという任務の重要性を認識していること、より大きな尊敬を払い、名誉をもって関係者を遇するべきであるという気持ちは人後に落ちるつもりはありません。しかし、内閣総理大臣たる私が自衛隊の最高指揮監督権を有していることは法制上当然でありますが、私としては、今回の中央省庁の再編に当たりましては、新たな業務の追加がないこと等から防衛庁は現状どおりの庁のままとしたいと、そう判断をいたしました。
(後略)