質問「『アジア経済の今後の変化について』他

(平成10年2月4日参議院国際問題に関する調査会会議録より抜粋)


(前略)
○山崎力君 まず、宮崎先生にお伺いしたいんですが、経済が素人の私から見ますと、一番のアジアの問題というか今回の問題というのは、雁行成長が今までの普通の考え方だったのが、今後もこれがこういった形でできるんだろうかできないんだろうかという点が一つあると思います。
  それは、投資があればそこで生産性が上がって各国間で同じような製品がわっとつくれる、そこで競争が生まれて、いいところはいいけれども数からいけば悪いところの方が多くなっていくという形、これは投資の受け皿のところで全然違った形になってくるという感じがするわけですね。そこのところに、今、通貨危機的な、先ほど先生の表現で言えばルールが不確立だと、確立されなきゃいかぬという問題が加わったときに、将来、各国経済の基盤の成長が雁行していけるのかどうかという部分は極めて根本的なところでわかりづらいという気が私自身はしているわけです。その辺をどのように考えればいいのかという点を宮崎先生にお伺いしたいと思います。
  寺島先生には、現象面での数々の適切な指摘でなるほどということがあったんですが、事我が国に関して見ますと、根本問題、それではなぜそうなったのかという根本要因のところは、レジュメを見ていくと「高い理念性」という表現がある。そうすると、我が国において高い理念性を持つということが可能なのかどうかという根本問題があるわけですが、むしろ戦後は我々は理念を捨てたからこそここまでやってこれたんじゃないんだろうか、それじゃ何が現時点での我が国の理念になり得るのかということを言っていただかないと、私に言わせれば先生のおっしゃったことはすべて絵にかいたもちになるんじゃないか。ところが、なかなかそれが出てこない。
  単に国益といっても、そのおどろおどろしさはこれはもう歴史を学べば当然出てくる話ですし、正義なのか、倫理なのか、今さらイデオロギーでもないだろう、宗教なんかとんでもないよと。そうなったときに、国際社会において我が国が理念性を持つ、その理念とは何があるべきなのか。人類愛だとかなんとかということでこの経済問題その他は、外交なんというのはまずできない。だけれども、西洋の連中はその部分があるんじゃないか、そこがポイントになっている。簡単に言えばパワーポリティックスを、その中で国を主張する論理性というものの担保をキリスト教国家出身のところはしているし、あるいは中国は別の観点からしている。その中で我が国のあれは何なのだろうかという点をお答え願えればと思います。

○参考人(宮崎勇君) 先生の前段の部分についてお答え申し上げます。
  私は、冒頭の発言の中で、アジアにおけるいわゆる雁行形態という発展形式はだんだん薄れていくだろうというふうに申し上げました。それは、グローバリゼーションが進んでまいりますと経済体制が等質化するということがありますし、それから片一方では、例えば成長率なり所得の高さというようなことからいきますと、先行したところはだんだん成熟過程に入ってまいりますからその意味でテンポが鈍ってくる、後の方が追っかけできますから、全体として雁行形態ではなくなってくるというふうに思います。
  しかし、そうは言いましても、各国それぞれ経済に特性がありますから、全体のグローバリゼーションが進む中で新しい分業体制というものができると思うんです。つまり、比較優位なところをだんだん伸ばしていくという結果になってくる。それがグローバリゼーションのプラスの面でもあるんですが、そういう比較優位をうまく生かせるかどうかということで、それぞれの国の構造改革がどの程度進むかということによって、依然として進んでいる国、おくれている国が出てくると思うんです。そういう意味では、だんだん雁行形態そのものは形が消えていきますけれども、先に行く今後からついていく人ということは依然として残っていくと思います。
  あるいは先生の雁行形態と言われる意味を私は間違って受け取ったでしょうか。
○山崎力君 済みません。
  私が言いたかったのは、そういうふうな形で一つのモデルケースとして考えられていたんですけれども、例えば日本において最初に造船とかあるいは自動車とかそういうふうな形の産業の先進性と経済成長性というのがあって、それを追っかける形でアジアの国が来ていたと。ところが、今これだけの技術と資本さえあれば、その技術移転が可能になってくれば、マレーシアでもインドネシアでもどこでも自動車がつくれる。それで、それをやったときに、雁行じゃなくなって、後から追っかけていくんじゃなくて一斉に横並びにしようとする。そのときにさっきおっしゃったような形での新分業体制というものが今までと違った形で出てこなきゃいかぬのに、果たしてその見通しが立っているんでしょうかと、こういう感じの質問だったわけです。そこのところに投資の流動性が、短期投資がというようなことも含めて、うまくいけるようなめどが今の経済の中で見えるんでしょうかと、そういうことが一番の質問の内容だったんです。

○参考人(宮崎勇君) 市場経済のもとで経済が先行きどうなってくるかということについては、市場に聞けというのが答えでございまして、そのことは、先ほども申しましたけれども、要するに事態の変化にシステムをどういうふうに変えていくか、それによると思います。
  今起こっている変化というのは、目に見えた形でこうなるんだというのは、恐らく二十年、三十年たたないとわからないというのが率直なところであります。
○参考人(寺島実郎君) 先生が御指摘になった日本にとっての理念性というか、日本の価値とは一体何だろうかということをまさに考えるわけですけれども、私が気になりますのは、今、グローバルスタンダードとか世界標準とか、そういう市場化という流れの中で我々が目指さなきゃいけない方向として規制緩和とか大競争の時代とかといった一連の流れができつつあるわけですけれども、その中でまさにおっしゃるように日本的価値というのを踏み固めなきゃいけないところに来ているだろうと。
  というのは、アメリカ的スタンダードの世界基準化というのをグローバルスタンダードと言っている傾向があるわけで、そういう中で、ただアメリカ的価値を礼賛していればいいというものじゃない、市場化とかそういうゲームの中に流れをとっていかなきゃいけない部分もあるわけです。
  この数字は非常に重要だと思っていますのは、アメリカでも七〇年代の初めごろはGDPに占める公的規制分野の比重というのは二割ぐらいあったんです。それを規制緩和、競争競争ということで、さっきのレーガノミックスじゃないですけれども、九〇年代に入って七%くらいまで押し下げてきたと言われておるわけです。一方、日本のGDPに占める公的規制分野の比重というのは四二%だというふうに経企庁の出している数字では推計されております。アメリカの激しい競争市場主義の社会も多分行き過ぎ、日本の四二%というのも社会主義国も真っ青の公的規制国家だということになっていて、これも内外価格差だとか規制の壁ということでこの国の活力をそいでいるということもまた一つのポイントだろうと思う。
  問題は、では日本はどういうあたりを青写真を描いて進んでいくんだということになるかと思うんですけれども、幾つかのキーワード的に言うと、一つは、安保の問題と絡めて言えば、やはり軽装備の経済国家としての理念性というものをしっかり踏み固めるべきだという点。
  それから、一つの例として、日本のいいところというのは、戦後のさまざまな要因があって、五五体制批判というのは大変多いわけですけれども、その一方で、実態として、社民主義的な政策を導入してきたことによって世界でもまれに見る富の平準化した国というのをつくっているわけです。ある意味では中間層というものを育てる社会というふうになっているわけです。
  アメリカの競争競争の中で今何が起こっているかというと、極端な貧富の差の拡大というのが起こっています。これは、例えばこの数字があります。アメリカの大企業のCEO、つまり会長、社長ですね、トップの平均年収と労働者の平均年収というのは、一九六五年に四十四倍の差があったんですけれども、九五年にはついに二百十二倍ということになっています。日本は大体これが二十倍です。極端に平準化しています。それがいいという意味で言っているんじゃありません。もっと日本にも競争を導入して、ストックオプションその他で活性化させなきゃだめだという議論があってもいいと思います。
  ただ、アメリカの二百十二倍というものの背景にあるもの、例えばディズニーのアイスナーという会長がいるんですけれども、九六年の年収は何と一億九千五百万ドルというような信じられないような年収を一人の人が取るような仕組みになっています。果たしてそういうアメリカンスタンダードにおける競争市場がいいのか。日本のよさというのは、ある種の健全な中間層、みんなが中間意識の中で生活していられる。ただ、さっきの末広先生の話じゃないですけれども、ある種の個人の生き方として幸せなのかというときに、余りにも私生活的なものに傾斜し過ぎているんじゃないかという傾向もありますけれども。日本の国をつくっていく上で我々がやってきたことというのはすべて間違っていたわけじゃなくて、その持ってける価値というのもやはり踏み固めなきゃいけない部分がある。
  そういう意味で、非核ということをさっき申し上げましたけれども、もう一つは、軽装備の経済国家としてある程度、分配の問題とか雇用の問題とか環境の問題、簡単に言うと社会政策を重視した国づくりというのがこの国のあり方としてふさわしいんじゃないか。
  事実、今欧州がアメリカと一線を画し始めています。EU加盟十五カ国中十三カ国でかつて社会主義政党と言われたところが政権に参加しています。ことしのドイツの総選挙でSPDが政権をとれば、EUは十五カ国中十四カ国がかつて社会主義政党と言ったところが市場経済に対応する形で衣がえして新しい時代に生き延びています。それは何を言っているかというと、欧州は、アメリカ流の競争競争市場主義に対して社会政策重視という方向にかじを切り始めているということなんです。
  だから、欧州の実験、それからアジアの混乱の中から出てきている反省、そういうものを踏まえて日本の政策理念というものをやはり見出していくべきだというのが私が申し上げたいポイントです。
(後略)