質問「南北首脳会談と今後の見通しについて

(平成12年4月20日参議院外交・防衛委員会会議録より抜粋)


(前略)
○山崎力君 両先生にお伺いしたいと思いますが、南北首脳会談、これから順調にスタートするとしてという前提なんですが、何が協議されるかは別としまして、私の感覚からすると、今回の南北首脳会談をスタートできた一つの大きな理由に、金大中大統領の方がピョンヤンを先に訪れるということがあると私は思っております。
  これは、向こうの儒教的な背景からいって、年齢的にも政治的にも上といいますか、そういった人が北へ先に行くと、これがやっぱり北が受け入れる一つの大きな理由になっていると思うんです。そうしますと、問題は次のステップとして金正日が、肩書はちょっとどう言っていいかわかりませんが、総書記かあるいは主席かは別として、ソウルを訪れる機会がなければ次のステップに行かないんじゃないかという気がしております。それが果たしてできるのかできないのかが、この南北首脳会談が今後順調に発展していくかどうかというかぎになろうと思うんです。
  それがないと、それからほかに付随すると言ってはなんですが、日朝関係、あるいは米朝、そういったものの基本にある南北関係が進展しない可能性がある。そこで、非常にネックになる可能性があるというふうに私は、そこが一つの近未来での大きなポイントだろうと思っておりますが、その辺の見通しと考え方について、両先生から御意見を伺いたいと思います。

○委員長(矢野哲朗君) それでは、小此木参考人、よろしゅうございますか、お願いします。
○参考人(小此木政夫君) 御指摘の金正日総書記のソウル訪問というようなものが考えられるんだろうかということですが、私はなかなかそれは容易ではないというふうに見ております。幾つかの理由があるんですが、そして韓国側もそこのところはわかっているんじゃないかというふうに考えております。
  幾つかの理由の最大のものは、北朝鮮の政治体制というのはもう最高指導者にすべて依存した体制でありまして、ある種の国家有機体説のようなものがとられておりまして、最高指導者は人体でいえば脳髄に当たるんだということを彼ら自身が言っております。我々から見るとちょっとおかしな話ではありますが、しかし、もし最高指導者に事故がありますと、もうその体制そのものが大きく動揺する、そういうような状態、そういうような体制でございますから、次の後継者がいて国内を仕切っているというような状況がない限り多分南に出てくるというようなことはないだろう、難しいというふうに思います。
  繰り返しになりますが、韓国側もそういう事情についてはわかっているはずでありまして、したがって首脳会談というのは多分一回だけの非常にシンボリックなものとして行われて、あとの問題は実務的なレベルで協議されていくというような形態になるんではないかと思います。もちろん、それは経済協力だけではございませんが、例えばシンボリックなものとしては、例えばそうですね、離散家族の再会の問題ですとか、こういうものは実現しますと大変大きな意味を持ってくるわけです。あるいはワールドカップ、二〇〇二年のワールドカップが一部ピョンヤンで開催されるとか、そういうスポーツや人道の面での出来事というのは十分に予想されると思うんです。そういう形で韓国の国民の期待をつないでいくということが考えられていくんじゃないかと思います。
  ただ、首脳会談万々歳ですべてうまくいくのかということに関しては私自身も非常に強い疑問を感じておりまして、つまり北朝鮮側が受け入れたのは金大中大統領の太陽政策の自分たちに都合のいい部分でありまして、つまり経済的な実利というところに非常に大きなウエートがあるわけです。それでは政治的な分野、外交的な分野で原則を変えたのかといえば、それは変えていないわけです。ですから、南北の合意書の冒頭の部分に、一九七二年の七・四共同声明の統一三原則を再確認しと、こういうところがございます。文章がございます。これは、憲法の前文のような形でそれがうたわれているわけですが、自主、平和、民族大同団結というこの三原則であります。
  北朝鮮側から見た場合の自主というのは何なのか。それは南北が主体的に合意したことであって、それはアメリカや日本の影響を受けないんですと。つまり、韓国はアメリカや日本に依存するような外交政策はやめてくださいという、日米韓の分断のようなものも意味しているでしょうし、在韓米軍の撤退というような要求にもつながり得るわけです。あるいは、平和ということになれば、ある種の平和宣言を行って相互の兵力を削減しましょうというような、かなり厳しい主張が出てくるかもしれませんし、さらに民族大同団結ということになれば、韓国内の、国家保安法を撤廃しろとかあるいは学生運動に対する取り締まりをやめろとか、いろんな要求はやっぱり掲げられてくるだろうと思います。
  ですから、善意に基づく非常に素直な協力というだけではなくて、政治や安全保障の面での厳しい駆け引きというのも同時に展開されるというふうに考えた方がよろしいだろうと思います。
○委員長(矢野哲朗君) ありがとうございました。あわせて、伊豆見参考人、お願いいたします。
○参考人(伊豆見元君) 今、小此木先生の方から非常に細かい御説明がございましたし、私も全く同感でありまして、やはり二回目はそう簡単にはないと思いますし、金正日総書記がソウルに簡単に行くとは考えられない。もちろん、うんと先の話は別だと思いますけれども。その点を韓国側がよく承知していると小此木先生はおっしゃいましたけれども、私もそう思いますし、そこが大事なんであろうかと思います。
  すなわち、首脳会談というのは、定期的に韓国と北朝鮮の間を行ったり来たりしなければいけないようなものとして構想は恐らくされていないと思います。それは、受け入れられる素地がもう今の時点でも十分韓国側にはあると私は思います。ただし、とはいえ、やはりやったからには相互主義でという声も当然あるわけですから、一たん金大中大統領がピョンヤンへ行ったのであれば、次は金正日総書記がソウルを訪れるべきであるという声は当然あるわけでありますし、その辺の批判というものをうまく乗り越えられるかどうかは、今後の南北関係がある程度進展して、その経済協力の面で目に見えるような形で、ああ前に進んでいるなというものが見えるか否かにかかっていると思います。
  経済協力がある程度、経済協力といいますか韓国側の経済支援というものが進み、それがそこそこ効果を上げているようだという印象が持たれるようであれば、特に韓国側ですぐ第二回目を、そして金正日総書記がソウルにすぐ来なければいけないというような声は、私は余り大きくならないと思います。要は、首脳会談そのものが大事なのではなくて、やはり首脳会談後の展開が非常に大事ということになろうかと思います。

(後略)