質問「『ペイオフ解禁延期の影響について』他

(平成12年5月10日参議院金融問題及び経済活性化に関する特別委員会会議録より抜粋)


(前略)
○山崎力君 まず、田中参考人に端的な形で御質問したいと思います。
  今度のペイオフの解禁延期、延びるということで具体的にはどういう影響といいますか、悪い方の影響があるとすればどういう点が一番問題だとお考えでしょうか。

○参考人(田中直毅君) ペイオフ解禁を延期されたことについて与党三党での合意というのがございました。しかし、それを見てもなかなかわからない、その意図が私には依然としてわかりにくいというふうに思っております。特に流動性預金、これは預金期限の定めのない預金でございますが、流動性預金にやっぱり問題があると。もしそこに問題が起きると事業会社の連鎖的な金融破綻が起きるということがどうも御懸念の筋道だったように思うんです。
  しかし、お手元の資料の三十四ページをごらんになっていただきますと、これは日本のちょうど昨年の春先から秋にかけての経緯でございますが、定期性預金と要求払い預金との比較がございます。棒グラフは金額でございまして、そして折れ線が対前年比伸び率でございますが、太い方が定期性預金でございまして、定期性預金の残高が対前年比で若干プラスだったのが少しずつ減ってきて秋にはゼロになるということになっているわけです。これに対して要求払い預金の対前年比伸び率は秋にかけてだんだん高くなっていっているわけです。
  これはどういうことかというと、要求払い預金は預け入れ期限の定めがないものですから、特定の金融機関、Aという銀行がおかしいといううわさが出たならば直ちにということを考えておられるのでしょう、そういうすぐにでも指示一つで移転できるような預金の方に移転されているということですから、逆に言いますと、銀行の流動性の問題からいきますと、貸出先との関係を薄くしておかないと今度は銀行が困ってしまうということですから、こうしたグラフ一つ見ていただいても、現実に預金者が状況に対して警戒的であるときには、今度は銀行自身が固定的な貸し出しに対してかなりちゅうちょせざるを得ないということが起きるわけです。
  したがって問題は、何か流動性預金だけを保護すればいいというようなテーマではなくて、金融システムに対して、銀行経営者は、果敢にみずからの銀行の自己資本を厚くするなり、あるいはコストを大幅に削減して預金者に安心感を持ってもらうなり、将来に対してどのような改善計画を行うかを発表して預金者の信頼を取り戻すということをやる以外にないわけであります。そういう意味では、流動性預金を全額保護しろというような御主張に対しては全く私は理解できないというふうに思っています。
  こうしたことが結果として金融機関の対応を先延ばしを助長するものですから、破綻した場合に当然債務超過額は大きくなっておりまして、国民の負担すべきものは大きくなるということがあります。
  そういう意味では、現在はシステミックリスクの状況ではありませんので、個々の金融機関が破綻に追い込まれること自体はこれはもうごく当たり前のこととして受けとめていただく以外にないんで、それが累積的な金融不安につながり、あらゆる当事者が自己保全のために新しいことは何もしない、すべて流動性を積み上げて事態に対応しようとする、これがシステミックリスクですが、そういうことは起きないと。起きない仕組みにしておいて、しかし個々に破綻する金融機関についてはこれはもう早期破綻処理という原則を政府は明らかにするといいますか、予定どおりペイオフの解禁を行えば政府の姿勢はより明確であったのではないかというふうに思っております。
○山崎力君 時間の関係で次々やらせていただきます。
  米田参考人にお伺いしたいんですが、今の田中参考人の方にも若干関係してくるんですけれども、要するに、個別銀行といいますか金融機関の破綻の問題と、それが業界全体といいますか、金融全体のいわゆるシステミックリスクにつながる、この関係がどうあるかというのはこれは極めて難しい問題だと思うんです。
  単行、一つつぶれてそれで終わりよということになるのか、いろいろな影響、連鎖という、そういうものでシステム全体に影響が出てくる。その判断を、どうとらえるかというのはこれは極めて、その場所、個別、その当時の状況すべてひっくるめなくちゃいけないんですが、それをどういうふうにお考えなのか。その辺のところで対応策も当然違ってこなくちゃいけない。
  それからもう一つ、モラルの面からいけば、このつぶれるというような銀行、破綻するような銀行が、放漫経営をやっていてつぶれそうになった場合と、ちゃんとしたある程度の経営はやっていたんだけれども、ありがちな経営判断のミスによって、余り道義的には非難できないようなミスによってつぶれそうになっている、この辺のところで、一般の国民からすればそれに対する同情心というのは違ってくるんだけれども、経済的な面からいけば全く変わらないわけです。その辺をどのようにお考えなのか、ちょっとお聞かせ願いたいと思います。

○参考人(米田貢君) 御質問は二つあったかと思いますけれども、まず最初の方に関して言わせていただきますと、先ほども申しましたように、市場原理の社会ですから、ある一定の局面で一定の個別金融機関が破綻するというのは、このこと自体は不可避だと思います。
  問題は、それがどんなふうな形で金融システムに影響を及ぼすかということですけれども、これは大状況としては、その時点で金融界全体で債務超過状態がどの程度になっているか、これにやっぱり基本的にはかかるかと思います。ですから、ずっと御議論になっている早期是正措置というのは、まさしくそういうふうな個別金融機関が破綻したときに金融システム全体として債務超過の状態になるべくなっていないようにする、あるいは債務超過になる前の時点で個々に破綻したものについては敢然と処理をしてしまう、この体制が肝要だろうと思うんです。もし、そこがきちっとした形で金融行政の点でチェックができていれば、一部の破綻が直ちに金融システムの破綻につながる、不安につながるということはまずはない、そういうふうに考えております。
  それと、二番目の問題ですけれども、これにつきまして、私自身、一九九五年前後にさまざまな信用組合が破綻しましたけれども、あのとき幾つかの財務状況を見てびっくりしました。資産の九割が焦げついている。ただし、その九割焦げついた対極にある負債ですけれども、預金の中で三千万円を超える預金者というのがずらずらっと並ぶ。個人のレベルで残っている。そういう点でいきますと、やはりそういうふうな、最後つぶれそうになった金融機関というのは、高金利でもって大口預金を集めようとしたわけです。そういうふうな形で、ある意味では個人も含めてそれに群がった人たちがいるわけです。果たしてこれを本当に預金の全額保護という形で救うべきだったかどうかについては、私はやっぱり大きな疑問を持っております。
  だから、原理的に言って、先ほど言いました小口零細預金を保護するというのが預金保険制度の本来の趣旨だとすれば、やっぱり現状から見て余りにも明らかに限度を逸脱したというか、行き過ぎた投資家がいる場合には、そういうふうな金融機関については断固としてペイオフをやるということも含めて対応が必要なんではないかなというふうにも考えております。
○山崎力君 そういう同じような感覚なんですが、ただ、それを制度の中にどう取り込むかということが非常に難しいなというのと、それから我々のこの問題というのは、最後のところになれば、そういう金融機関にシステム全体に影響あるんだから膨大なお金でもお金をつぎ込もうよということに対して、国民が納得するかしないかという問題だと思うんです。その辺の制度的な問題と、それから国民個人の感情、ある意味では感情的な問題。理論に基づいた、理屈に基づいたとはいえある程度の満足感といいますか、納得、その辺のところの整合性といいますか、その辺をどうとらえるかというのは、この問題、大きい問題だと思っております。
  それで、時間の関係ではしょりますが、モラルハザードということが言われているんですけれども、今の世界の金融の流れというのは、まさにジャングルローと言われる弱肉強食、規模の有意差を持ってこようということで行われつつあるようにも見えるんです。その辺のところを、何というんでしょうか、私のとらえ方ということについて、田中参考人、米田参考人に一言ずつ教えていただければと思います。

○参考人(田中直毅君) 世界で金融機関の規模がどんどん合併等を通じて大きくなっているというお話ですが、これは、例えば預金者、その銀行あるいは金融機関の利用者からいけば、利用者の利便がより拡大すると考えればいいと思います。
  例えば、寡占度において、それではもう通常の工業製品に見られるような寡占度というのをつくってみますと、大きな銀行が次々登場したとしても寡占度が著しく高まったということはございませんので、確かに金融機関従事者にとってはなかなか競争が厳しくなってつらいかもしれませんけれども、一般の事業者や、それから預金者、投資家という立場に立ちますと、サービスはより好転するということでございますので、何か異常な支配度を持っているという話なら別でございますが、そうでないとすると、一般の有権者あるいは国民が、金融機関が非常に厳しい競争が始まったことについて同情するというような必要は全くないというふうに思っております。
  それから、モラルハザードでございますが、これは預金者にも金融関係者にも起きることでありまして、その預金を全額保護するということになりますと、それは預金者はただ金利が高いところに持っていけばいい、破綻したとしても全額保護してもらえるということですから、人の懐を当てにしてといいますか、ほかの人のコスト負担を当てにして自分だけ利益を得ようとする行為を制度上許すということになりますから。
  一方でシステミックリスクが登場するのはもちろん抑えなければいけませんが、他方でそうしたモラルハザードを構造上許すということは国民の士気にかかわることだというふうに思いますので、そのバランスを考えるのが政府の役割ではないかというふうに思います。
○山崎力君 時間がありますので、一言だけあれば。
○参考人(米田貢君) まず、最近進展しております金融再編成の問題ですけれども、まだ私は、この間の金融再編成の流れは量から質へという形には必ずしも流れていない。やはり、まだ日本の銀行業界というのは大きさが勝負だというふうな意識でいるんじゃないかなと。その点では、国際的な本当の金融再編の流れの中に乗り切っていけるのかどうかという点ではまだまだ大きな不安を持っています。
  ただ、その上でこれだけ大規模な銀行が出てくると、明確に金融行政としてもそういうふうな国際的な競争戦に生き残るための巨大銀行と、それと本当の意味での地域密着型の金融機関とのすみ分けということをやはり制度的にも本格的に考えていかざるを得ない。
  その点で、預金保険制度とのかかわりで早期是正措置等が自己資本比率を中心にあらゆる金融機関に対して適用されつつありますけれども、僕としては、こういうふうな地域密着型の金融機関あるいは協同組合型の金融機関については、単なる自己資本規制というふうなレベルじゃなくて、もっと幅広い実情に応じた形での規制、管理の体制が必要ではないかなというふうに考えております。
○山崎力君 終わります。

(後略)