質問「『生産拠点の中国シフトについて』他

(平成14年2月6日参議院国際問題に関する調査会会議録より抜粋)


(前略)
○山崎力君 自民党の山崎でございます。
  両先生に今お話を伺って、問題点絞ってお伺いしたいと思いますが、共通するところでの一番不確定要素、それで一番重要な要素はやはり中国だろうというふうに思います。
  その点でお伺いしたいんですが、今一番問題になっている為替のこともございましたけれども、私はむしろ、自由な、先ほどお話、最後のところでありました民間資本移動の不在というところが一番の問題でありまして、これのないところに為替も何もあったもんじゃないなという気がするわけです。で、中国がうまくいくかいかないかというのが、いつの時点でこの民間資本移動を政府が容認するかということにあろうかと思います。
  そして、東アジア経済の一番の僕の問題点は、日本を中心とした資本投下をしている国が中国へ生産拠点をシフトするのかしないのかと。
  これは人件費の当然の問題がございます。中国の場合、バックグラウンドが大きいものですから、ある人に言わせると、五年十年たつと人件費が上がるのが、中国の場合はもう同じ人件費でずっと来ていると。まして為替が固定化されているもんだから競争力が非常に強い、しかもなおかつ技術力もほかの東アジアの国々に比べて強いと。これが世界の生産拠点になるんではないかということが中国脅威論の一つの背景にあろうと思います。
  その辺のところでどういうふうなことが予想されるかということを踏まえなければ東アジアの将来経済展望というのは開けてこないという、これは極端な言い方になりますけれども、僕はそういうふうに考えているわけです。ですから、そのときは為替の問題も当然出てくるでしょう。
  それで、もう一つ、これはどちらかというと大野先生の方に関するのかもしれないんですが、為替のことで余りということをおっしゃったんですが、それでは、日本が三百六十円一ドルでやっていたらどうなっていたのかねということがあるわけです。そうすれば、日本の生産拠点が東南アジア、アジア、東アジアに移転することも今みたいになかったんではないかということも言えるし、世界経済が大きく変動、今みたいな形にならなかったんではないか、逆の目から見ますとね。そうすると、やはり為替というのの大きさ、変化というのは相当程度大きいのではないかなという気が素人考えですがするんですが、その辺のお考えを併せて、中国のことについてのその辺の両先生の御見解と、大野先生の、その為替の僕みたいな考え方に対しての先生の考え方をお聞かせ願えればと思います。

○参考人(青木健君) ちょっと難しい質問だと思うんですけれども、私は、じゃ、日本の企業はASEAN中心に東南アジアに猛烈な勢いで投下したわけですけれども、日本はもとより、そこから中国へ生産拠点をシフトするかという、そういうふうな考え、観点から御説明させていただきたいと思います。
  実は私、一九八七年から九〇年までマレーシアに駐在いたしておりました。そのころ、最初に御説明いたしました一九八五年に円高ドル安、為替レート調整、猛烈な勢いで日本に行ったわけです。マレーシア経済が復調、そして好調になったわけで、ある意味で私は、マレーシア経済の地獄から天国、その過程を内部においてつぶさに見たという感じがいたします。
  その後、毎年ほぼ一回ぐらいマレーシアその他アジア諸国に行ったんですけれども、今の観点から申しますと、日本企業は猛烈な勢いでマレーシアなり生産拠点をシフトしたわけなんですけれども、やはり先ほどおっしゃられました賃金上がっているんです。しかし、それほど上がっていないということなんですね。
  一つは、特に電気、電子が世界的な拠点の一つだったわけですけれども、女性の雇用を高めていったわけですね。一九六〇年ぐらいは電気、電子の雇用比率が一割ぐらいで、もう今や八〇、九〇%になったと。女性が賃金上昇を収めたということなんですね。
  そういう意味で、マレーシア、人口は二千万人、少ないんですけれども、行っていたと。しかし、その後世界的に、あるいはアジア、世界的に生産増やしていったわけなんですけれども、その国内、マレーシアに進出した日本企業が対応できない部分、中国で生産させていると。こういうふうな、ある意味で生産拠点を中国にシフトしたと同じことになるわけですね。
  同じようなことが中国においては、マレーシアの場合は女性が生産拠点をシフトさせないけれども、過剰、受注が多い部分、中国に生産シフトという現象が、中国においては膨大な人口がありまして、先ほどおっしゃられましたように十年間ぐらい一万円ぐらいで賃金が上がらないということですね。しかし、技術的な向上をしている、いい製品ができるということで、これは中国に向かうのは不可避じゃないかという感じがいたします。
  実は、同じようなことは七年前、今から七年ぐらい前ですか、MITのサロー教授がこういう指摘をしているんです。ちょっと読まさせていただきます。技能で中国の上から半分の労働者が日本の下から半分の労働者よりも優れたとしたら、経営者は中国より技能の低い日本の労働者により高い賃金を支払うであろうかということですから、賃金が二十分の一、三分の一と、これは必然ですね。これは流れは止められないんじゃないかという感じがいたします。
  しかし、中国の場合、不確定要素、いろんな問題があるから、リスク分散、特にニューヨークのテロ、世界貿易センターテロ攻撃以降、特に北米においてはカナダから自動車、進出日系自動車メーカーに部品の搬送が遅れてしまったということで、危険分散ですね。日本企業はそれまでジャスト・イン・タイムということで在庫をほとんどなくするような行動をしていたわけです。それが、テロ危機以降、ジャスト・イン・ケースという言い方をするんだそうです。この場合、ジャスト・イン・ケース・オブ・エマージェンシー、つまり、危機があったときにどうするかということ。恐らく中国の場合は何が起こるか分からないということで、すべて中国、中国へと草木もなびくということはないんじゃないかというふうな感じはある。
  実際、例えばナショナルのかつてシンガポールに現法の社長をした人たちに聞いてみますと、絶対そういうことはないと。必ず危険分散、リスク分散ということで、中国へ全部生産拠点ですか、集約する、あるいはシフトさせるようなことはないということで、その辺は大丈夫じゃないかというような感じがいたします。
  ただし、十年先、例えば十年先には中国・ASEAN・FTA、完成するということなんですけれども、二〇〇八年に中国オリンピックがあります。その前後、恐らく日本の東京オリンピックと同じように建設ブームで中国は沸くんじゃないかという感じはいたします。
  今、大きな混乱がなくて、そういうことがあればまた再び中国中国というふうになびく感じもしないでもない、そういうふうに私は考えています。
○参考人(大野健一君) 幾つかありますけれども、まず中国が資本移動をまだ許していないんでいつ許すんだという一つの問題、私は今はそれは考えなくていいと思うんですね。少なくとも、FDI、つまり投資で、工場を作ったり生産をする方の投資というのはできますから、ファイナンシャルキャピタルが中国に自由に出入りするということは、今、中国、考える必要はないし、当面の問題でないし、アジア危機の例を見ても、やっぱりそう簡単に、実体経済がまだああいう状態のときにやらない方がいいというのはありましたから。だから、それは問題じゃない、むしろ貿易の、WTOの方が問題だと思います。
  為替については、中国の問題があるとしたら、今は強いように見えますけれども、これは波があるわけで、私が想定できる中国のショックというのは、何か中国の元が、政治的か分かりませんし社会的か分かりませんし、あるいは競争力が落ちてきて輸出が余り伸びなくなったかもしれませんけれども、切下げ圧力が掛かって、うまくエキシットできなくて、やっぱりタイのバーツみたいな形で落ち始めた場合、元が、そのときに東南アジアや日本にかなりのショックが走るんだろうと思いますね。だから、必ずしも切上げの問題だけでなくて切下げのリスクもあるんで、そういうようなことが中国にとって少し考えておかないといけないことだと思います。
  だから、エキシットプロブレムというか、為替を危機なしに脱出させるというようなことは、問題ないときはだれも考えようとしないんです。でも、問題が出てから考えるともう遅過ぎるんですね。これはアルゼンチンでもメキシコでも同じです。だから、今、問題ないときに中国をどうやってソフトランディングさせるかということを考えておかないと、今WTO入ってどうなるか分からないわけですから、いつまでこのユーフォリアが続くか分からないというので、両方のリスクを考えておいた方がいいと。
  それから、もう一つ言いたいことは、中国が今、資本移動がないから為替が関係ないというよりも、私がさっき言ったように、中国の経済というのは非常に、あんなに大きい国なのに非常に典型的な途上国経済なんですよ。つまり、貿易依存度が非常に高くて、部品をたくさん輸入してそれを加工して輸出する部分が非常に大きいわけですから、その辺は為替レートは関係ないんですね。だって、輸入してくる部品がドル建てですから。だから、それで、組立て加工の部分の賃金というのは非常に小さいわけで、それが為替切下げ、切上げによって何%か変わろうとしても、やっぱり中国の本質的に強い部分というのはそこから来ているものではないんで、為替によっては調整というのはなかなか難しいと思います。
  元切上げしたら、その分だけドル、いわゆるパススルーでドルの輸入部品が下がる、上がるわけですか、で、出すときにまた同じレートでやれば結局余り変わらないんですね。だから、元切上げによって中国の競争力を下げることはできないと思います。むしろ、中国が、パーツインダストリーが少しずつ育ってきて、技術力が上がってきて、生産力、品質も上がってきてと、そういうところですから。
  あと……
○山崎力君 ちょっと済みません。よろしいですか、今のところで。
  ですから、今、日本の経済界の問題は、生産拠点が中国にシフトしているという問題から進んで、パーツインダストリー、要するに日本の部品製造業が、中小が中心ですが、それが中国にシフトしている、し掛けているというところが一番危機感を持っているところだというのが僕の質問の根底にあることなんです。

○参考人(大野健一君) もし日本が経済が元気だったら、むしろそれは問題でなくて、発展していると言うと思うんですけれども、青木先生がおっしゃったように、やっぱり日本の企業が一番安くていいものを作れるところに出ていくというのは本質的にこれは発展している、ダイナミズムだと思うんですね。それを日本で危機と考えるということは、雇用問題として考えるということは、やっぱりそれは日本の国内のエネルギーの問題なんで、どういうんですか、それを日本にとっていいことだと思えるような日本のエネルギーを中で作らなきゃいけないんで、それは中国に行くのを止めたってやっぱり中にエネルギーがない限りは解決にならないんで、やっぱり回り回って日本の経済活力の復興になっちゃうんだと思いますね。
  それからもう一つ、為替レートが日本でも三百六十円が今百三十円台になって、これを変えなきゃ海外進出もなかったんじゃないか。これについては、僕は、少し極端かもしれませんけれども、あの為替レート、三百六十円でも大体同じことが起こったと思います。ただ、その場合は、賃金とか物価の動きが変わっていただろうと思うんで、それは計算したことありますけれども。
  ただ、為替レートをフロートにすると時々激しい円高、円安があるので、波があるという、ショックが大きいというのがありますから、急激に円高になったときに急いで出ると、八〇年代後半みたいな、そういうことはあると思いますけれども、今度円安になると今度はそれが止まるわけで、そういう揺れがフロートになって出ますけれども、根本的に三百六十円今やっていても、日本の賃金上がってくれば当然外出ていったと思います。ただ、フロートして、その波が時々激しい突き上げがあって、またそれが止まってと、そういうふうな激しい状況の方がたくさん海外に進出したかどうかというのは私はよく分かりません。
  でも、根本的にやっぱり為替レートというのは、長期的に見ればやはり実物経済を根本的には変えられないと思うんですね。やっぱり日本が先進国した、日本てまだ十分出ていないんじゃないですか、ほかの国に比べたら。アメリカ、ヨーロッパに比べて海外進出はまだ少ないと思います。これはやっぱり日本が先進国して賃金が高くなったから、賃金をたくさん、労働力をたくさん作る部分は外に出ていくのは当然のことでありまして、それは三百六十円でも百三十円でも、それは相対的に物価とか賃金がどこに行くか、三百六十円ならば三百六十円なりの物価と賃金があるでしょうし、今みたいに円高になってくるとアメリカよりも賃金の上昇率が低いということになって、相対的にはそんなに変わらないと私は思います。
(後略)