質問「中東諸国に日本ができること

(平成14年2月13日参議院国際問題に関する調査会会議録より抜粋)


(前略)
○山崎力君 自由民主党の山崎でございます。
  非常に何というんでしょう、詳しい御議論というかお考えを伺った後でございますのですが、非常に有り難く思うんですが、知識量からいきまして非常に大ざっぱに質問する形で申し訳ないんですが、今、三先生のお話について私なりの解釈を申し上げますので、大ざっぱに、もちろん大ざっぱにですが、そこのところが、ここが一番そういう考え方はまずいんだというところがあったらまず御指摘願いたいという前提でお聞き願いたいと思います。
  今のお話聞くと、要するにバックグラウンドが、簡単に言えば中近東諸国に対してのアメリカを中心とする西欧の考え方というのは、石油の安定供給さえきちっとしてくれればいいんだ、そこでもうけさせてくれればいいんだというのが一番の根本にありまして、そのためには、何とかそこのところの政権が安定してほしい、その政体はもう問わないと、国民はある意味じゃどうでもいいけれどもというような印象を受けました。そして、西洋の基準で言えばまともな政体の国家が少ない、法治主義ではないという意味で少ない。そういった中で、どうやって実際の動きに対して対応しているかということが今までのお話の経過じゃないのかなと非常に大ざっぱに感じた次第です。
  そして、そこのところでやはり大きな影響を受けているのがイスラム教であり、そこのところに政教が分離が余り、未分化であるという背景もあって、人民、世論に対する影響力も強いと。そこで、民族主義的な部分もあれば、アラブの民族主義的な部分もあれば、今までの歴史的経過の中での置かれた立場に対する反発心、それから実際の外交上のプレッシャーに対する反発心、そういったものがあって、それがアメリカに対して向かっている。特に、後半、平山先生おっしゃったようなパレスチナ問題に対するイスラエル、それに対するアメリカの、非常に、これは歴史的に言えば西欧、イギリスのせいかもしれませんけれども、非常に何というんでしょう、言葉に言えばとんでもないことをやっていると。そういうことに対する実態を見るにつけ、そこがばねとなって今のいろいろな問題を起こしているというふうに、歴史的背景もこれありで、宗教的な背景もありということだというふうに大ざっぱに受け止めました。
  非常にそこのところの考え方で問題があるといえば、そこのところを指摘していただきたい。
  それで、一番私がそこの現状において問題になるのは、この間の同時多発テロにも見られたように、そういったフラストレーションが、アメリカと、イスラエルに対するテロであればともかく、それだけであればともかく、自爆・無差別テロが全世界に広がりかねない、それがアメリカを中心とする世界の秩序に対して大きな影響を与えかねないということの現実が、今それぞれの国の対応になって現れてきているんではないか。特に、アメリカが強硬な姿勢を取っている背景にあって、それに付いてこなければそれだったらそれでいいよというような脅かしまがいの発言までアメリカから出てきている。
  そういった認識の下に、非常にネガティブですが、日本がどこまでこの問題に頭突っ込めるのかという立場からいきますと、今の話からすると、非常に悲観的な言い方で恐縮ですが、国連というバッファーはおくとしても、人道援助に金を払う以上のところが日本としてできるんだろうかねというのが私の今の感想なんですが、先ほどの問題点の指摘と併せて、そういった感想を持っていることについてお答えいただければと。
  三先生、それぞれお願いしたいんですが。

○参考人(立山良司君) 今、山崎先生がおっしゃいました基本的な認識といいますか、アメリカあるいはヨーロッパ諸国が、石油の安定あるいは経済的な利益のために、政体は問わずに安定していればいいと、政治的に安定していればいい、そのことが、加えてパレスチナ問題等があり、あるいは歴史的な問題があり、アメリカに対する反感を招いているのではないか、正におっしゃるとおりだと思います。
  元々、イスラム諸国というのは、あるいはイスラム世界というのは、ヨーロッパ文明に勝る文明を中世から近世に掛けて築いてきたわけですけれども、それが現在では逆転してしまって、むしろどちらかというと利用されている、石油を供給するためのある意味では基地のようになってしまっているというようなこと、あるいはその政権を様々な形でアメリカないしヨーロッパ諸国、冷戦時代はソ連もそうでしたけれども、支援をしているということに対する反感というのは非常に強いのだろうと思います。
  日本が、じゃ、こういう状況の中で、特にアメリカが今敵か味方かというような二者択一的な選択を迫っているときに何ができるのかということですけれども、極めて、おっしゃるとおり、できることは少ないかと思います。しかし、例えばパレスチナ問題に関しましても、九〇年代、様々な形で日本は発言もしてきましたし、実際的に援助を行ってきて、町づくり、人づくりにも貢献をしてきたわけです。やはりそういった地道な努力というのは今後とも続けていくべきだと思いますし、それから、EUとどこまで連携ができるかというのは難しいところかと思いますけれども、イランとの関係は日本は長く持ってきているわけですし、あるいは私が冒頭申し上げた中央アジアも、中東の中あるいはイスラム世界の中で重要性を増してきているわけですから、そういう中央アジアとの関係も拡大をしていくという形で、人道援助以外でも様々な協力、発言というのはできるのではないかと思っております。
  ただ、じゃ、すぐ具体的に何をという、大きなものというのは個々の問題では申し上げることはできるかと思いますけれども、取りあえずそういうことは可能かと思っております。
○参考人(酒井啓子君) 非常に大きなテーマでございますので明確に答えられるかどうかあれですけれども、私なりの考え方を申し上げさせていただければ、正におっしゃるとおり、欧米諸国の中近東に対する利害優先的な関係というものはおっしゃるとおりだと思います。
  ただ、中近東諸国の中でそうした欧米に対するフラストレーションが高いということはそれも確かなんですけれども、ただ一点、私が重視しておりますのは、それは民衆レベルでのフラストレーションであって、つまり欧米が自分たちを利用しているだけであるというような感覚は民衆レベルには強いわけですけれども、逆に国家レベルではどうかといいますと、必ずしもそれを反映したものにはなっていないというのが私の見方でございます。
  逆に、国家レベルではそうした民衆レベルのフラストレーションを利用してアメリカを追い立てるような、むしろアメリカを利用するような、これだけ我が国では反米感情が、反米というか、アメリカの例えばイスラエル偏向姿勢が問題になっているのだから我々の国にも援助をもう少し増やしてほしいとか、そういうような形で、逆にアメリカの関心をイスラム諸国あるいはアラブ諸国に向けさせるような形で政策的に利用するという問題があるかと思うんですね。
  ですから、そういう意味では民衆レベルの対欧米感情と国家レベルの政策的な利用というものに乖離がやはりあるというそのこと、その乖離自体が更にまた民衆の中でフラストレーションを生むという、正に乖離しているという状況、おっしゃったとおり中東諸国ではまだまだ民主的なプロセスが確立されていない国が多うございますので、そこが一層フラストレーションを高めるという、正に今回のテロのような事件につながっていくという問題があるかと思います。
  そこで、日本がどのような形でかかわっていけるか、あるいは問題の解決にその役割を果たせるかということですけれども、これは一つの例としてお考えいただければよろしいかと思いますけれども、確かに、アメリカがこちらに付くかあちらに付くかというような二分法で迫ってくる際に、なかなか態度を決めかねる難しい問題かとは思いますけれども、アメリカの今回の対応の中で唯一非常にもったいないな、極めてもったいないなと思うことはイランに対する対応であります。
  イランは、先ほども申し上げましたように、正にイスラム原理主義国家の筆頭として成立したわけですけれども、これは革命から二十年以上たちまして少しずつ普通の国家ということで生まれてきております。先ほど申しました国家と民衆の意識の乖離という意味では、イランほどこれがつながっている国はないと。つまり、民衆の政治意識なり社会意識といったものが今のハタミ政権ほど密接に反映されているような国はない。その意味では、ある意味で中東の中で最も民主的と言っていいかもしれないような状況がございます。
  それに対してアメリカがどうしても今回の事件をイスラムという枠でくくろうとしておりますので、ついついやはりイランがイスラム、昔ながらの、二十年前のトラウマというものがどうしてもやはりあるとは思いますけれども、イスラム原理主義の脅威の親玉としてのイランという、そこの部分で逆にイランを、民主化しつつあるイランを反対側に押しやるような姿勢を取っております。
  それに対して、日本は若干やはりスタンスを違えております。これは過去二年間の間の日本・イラン外交関係を見れば明白ではありますけれども、非常に文化レベルから始めて密接な関係を維持しております。
  イラン最大のアザデガンという油田を日本企業が優先権を持って交渉に今当たっているところですけれども、そうした、アメリカの外交にどうしても追随せざるを得ない日本外交といえども、イランに関してはある程度の独自のパイプを維持している。逆にアメリカも、建前上イランと接触できないというような環境の中で、むしろ日本を通じてイランとパイプをつなごうというような水面下の動き、これは民間レベルでございますけれども、あるように聞いております。そういうアメリカが建前的にどうしても話ができないような相手にこそ、日本が何らかの形でつなぎ役として役割を果たすことが可能なのではないかというふうに考えております。
○参考人(平山健太郎君) 酒井さんのお話で、アメリカができないようなところを肩代わりしてやって貢献するというのは、湾岸危機のとき、ヨルダンを支援しているんですね。ヨルダン側のサダム・フセインとの特殊関係があって、アメリカに言わばにらまれて、アメリカに干し上げられていた苦境のどん底にあったときに、日本は援助を続けて、それがわずか半年後には、マドリード会議でパレスチナ側の参加をイスラエルがどうしても拒絶したときに、そのヨルダン代表団の中に抱え込んで出席させるという、和平のための受け皿を温存することに大変協力してあげているんですよね。その種のことが、日本のできることはいろいろあると思うんです。
  少し理屈っぽくなりますけれども、日本がこのパレスチナ問題について割合旗幟鮮明に、占領地は返すべきだ、パレスチナ人の民族自決権を認めるべきだという方向を打ち出したのは、一九七三年のあのオイルショックの後であります。当時の二階堂進さんが官房長官ですか、が談話を発表して、その趣旨のことを言って、それからレールが、大体その敷かれたレールに従って動いてきております。
  当時は油ごいの外交なんという自嘲的なマスコミのコメントもあったんですけれども、必ずしもそうじゃなくて、北方領土問題にもつながる、要するに占領とか併合というのは認めないと。両方同じ基準で物が言える立場に日本はあると思うんですね。
  さらに、過去を振り返ってみるならば、日本がかつて朝鮮、満州、台湾を占領し併合して、その結果はどうなったかと。その後遺症がいまだに残っている。そういう日本の負の遺産の部分も含めて振り返ってみた場合に、イスラエルに対してもっと正々堂々と、あるいは国際社会に向かって発言できるはずだろうと思うんですね。事務方がやってきた地味な援助ばかりじゃなしに、何か公の場所で日本はこう思うということをもっと積極的に発言できると思うんです。
  その中には北方領土の問題も当然含まれてまいります。他国の領土の占領の永続あるいはその併合というのは、ろくなことにはならないんだと。それらをなくして近隣関係をよくする、日本をモデルにしてみたらどうかということを、もっと大きな声で目立つ場所でも発言を続けるべきだろうと思います。これが一つ。
  それから、日本は、例のアラファト、ラビンのあの歴史的和解のオスロ合意の調印式、ホワイトハウスの南側の芝生で行われておりますけれども、そこに参列しておりました外務大臣は四人です。アメリカと、共同議長国のロシア、それから裏で合意の成立に尽力したノルウェー、もう一人は日本です。当時の羽田外相ですね。一番前列に座ってにこにこしている映像を覚えておりますけれども、やはりお祭りと同じで一番いい席に座る人はたくさん包んで持っていくわけで、日本もその辺が期待されて呼ばれたんだろうと思うんですけれども、そのとおり日本はパレスチナ自治機関への支援では断トツでアメリカと並んでトップの位置を占めている。
  それらの援助というのは、ODA資金や何かでJICAが現場を監督していかなきゃならない、その人たちが今、騒乱が始まって以来その現場に近づけないというか、退去勧告が出たりしているものですから、行き詰まってはいるんですけれども、一つ非常にこの騒乱の下で感謝されていることがあります。
  それは、パレスチナの市町村に対する失業対策費を供与しているんですね。それによって、日当千五百円ぐらいですけれども、パレスチナでは食料は安いですからかなりの金額になります。それで延べ二十万人が雇用されています。日本がそれをやったものですから、デンマーク、フランス、アメリカがそれに倣ってそのプロジェクトに参加してきています、国連のUNDPという組織を経由しているんですけれども。
  何をその失業対策費でやっているかというと、イスラエル軍の軍事報復で壊された家屋の補修、それから、イスラエル軍が物陰からパレスチナ側が狙撃したりするからという治安上の理由で交差点近くのパレスチナ人の畑のオリーブの木を引き抜いてしまったその後のオリーブの再植林とか、そういうようなこと。使い道はパレスチナ側に任せておりますから、それに日本の援助資金が使われているということについて、大変パレスチナ側は感謝しております。
  それが、日本によってそれらの補修がなされたかということが分かるように記録されているのかと、何か札でも立てているのかと聞いたら、立てているそうです。何語で書いてあるか聞いたら、英語とアラビア語だと。それじゃ駄目だ、もっとヘブライ語で大きく書いてイスラエルの兵隊の方に向けておかないとお守り効果が薄いんじゃないかなと言ってきました。
  ヨーロッパもそれと似たような問題を抱えておりまして、先ほど申し上げたように、イスラエルが軍事報復で壊したパレスチナの放送局、警察署、そういった建物がEUの寄贈、ドネーションによるものが多いんですね。それに対する損害賠償をイスラエルに求めるというようなことも言っておりました。
  筋からいっても、やはり占領地を返さないということはやっぱり国際的な違法行為なんですから、その辺についての認識は日本は代々歴代政権は持ってこられたわけですから、実際の動きが出てきたときにやはり、対米関係はもちろん大事ですけれども、先日、EUの外相会議でフランスのベドリヌ外相が非常に明確な形で、EUは、あるいはフランスはと言ったんですかね、フランスはアメリカの同盟国である、九月十一日の事件については同情を禁じ得ない、テロ撲滅には協力する、しかしあのイスラエルの政策に対するアメリカの盲目的な支援は一体何事だと、それにはとても付いていけない、EUは別のやり方をするということで、いろいろ今提案を出しております。
  その辺、外務省の方々は当然御存じだろうと思うんですけれども、日本はやはり何らかの形でこのプレゼンス、政治的なイニシアチブを示して、同盟国であるアメリカに対する説得を試みる人道上の義務があるように私は思います。
(後略)